私、見ちゃったんだ。かくれんぼしてて、船の倉庫に入ってみたら、大きな樽がたくさん並んでて、塩がいっぱいに入ってたの。 パパはね、塩をつくるには、海の水を乾かさなきゃいけないって言うんだ。でも……あんなにたくさんの塩をつくってたら、いつか海は全部乾いちゃうんじゃない? それってなんだか寂しいって思うから、私、決めたんだ。これから、塩を使った食べ物は食べないの。ふふふ、これで海は守れるかな?
私が海上騎士団の見習いだったころ、ソルトルートは危険な海域として知られていた。ザルツァイトから輸出される塩を狙って、海賊船が至る所に浮かんでいたのだ。 今では随分と平和になったが、これは先輩方の御尽力に依るところが大きい。海賊の横暴を決して許さず、ひたすらに駆逐を目指し、それを遂に実現した誇り高き海上騎士団。私は今でもあの先輩方の背中を追っている。この平和な海を眺めるたびに、改めてそれを思い出し、さらに精進せねばと奮い立たされるのだ。
塩は誰もが欲しがる最高の商品だよ。でも、だからって適当に売り捌いちゃだめなんだ。塩の売買で大切なことは、とにかく大量に欲している買い手を見つけること。 狙い目は、田舎の修道院や病院、あるいは魔法学校あたりだよ。治療か、保存食づくりか、あるいは魔術か、何に使うのかはわかったもんじゃないけど、彼らはいつも塩を欲しがっているんだ。いけると思ったら迷わず全部売ってしまうんだよ。わかったね?
シリーズ:見習い交易商人のメモ
今夏の塩の価格は、需要の増加に伴い上昇傾向にあり。他国大手商船団の買い占めによる価格の高騰が懸念されるため、一時的に他国船の購入制限を設ける。制限量は追って通達。各位、留意されたし。
まさか俺がザルツァイトを離れる日が来るなんてな。親も兄弟もいねえ俺には惜しむ気持ちはねえし、この先にどんなやべえ海が待ってるのかって興奮しかねえ。 知らねえ海を渡るんだ。せっかくだからこうやって日誌を書いていくことにした。学のねえ俺たちに読み書きを無理矢理叩きこんでくれたトルリの旦那に、感謝しねえとな!
島々に暮らす数少ない住人の話では、竜巻は一度たりとも完全に消えたことがないのだという。 水と風の魔力が強く衝突することで、竜巻は発生すると考えられている。つまり、この海域には水と風の強い魔力が常に流れ込んでいるということだろう。しかし、肝心の魔力の源は発見できていない。まったくもって不思議である。この現象について丁寧に探れば、世界の真理に近づけるような気がしている。 私も随分と老いてしまったが、研究者としての情熱が潰える日は、まだ先のようだ。
シリーズ:気候学者の推察
ただの風でも髪が乱れるから絶対いやなのに、竜巻なんてもうサイアク。せっかく習得した天候変化の魔法を使っても、ぜんぜん弱まらないし。 ……でも私、それより大事なことに気づいちゃったんだけど、こんな危ない島に住人なんてホントにいるの……? 届け物の依頼って、もしかして罠? どうしよう、もう帰っちゃおうかな……。
シリーズ:素人魔法使いの呟き
神聖なる竜巻に守られたこの島々は、悪しき者たちが決して近づくことのできない聖域なのだよ! にもかかわらず近頃の若者ときたら、やれ不便だやれ危険だなどと言って島からすぐに出て行こうとする! まったく、伝統を守ろうという気持ちは少しでも持ち合わせていないものかね!? クソッ……! 今日は配達が遅いではないか!? 老人だらけのこんな島では食料自給も難しいというのに……まったく何をやっているのだ!?
魔海域を航海しまくってたときは、リューゼスのヤロウについてったらいつか死ぬんじゃねえかっていつも思ってたんだ。だがいざ安全な航路を進んでみると、退屈で仕方がねえ。 竜巻諸島に突っ込むってんで、どっかの王子様やら選ばれしなんとかやらっつうアイツらは驚いてたみてえだが、こんなのは屁でもねえだろ。俺たち船乗りの本気ってヤツを見せてやるぜ!
凪の海域で船を進めてたら、監獄島へと向かう黒塗りの船とすれ違ったんだ。ありゃまるで悪魔の船って感じの恐ろしさだったぜ。いったいどんな犯罪に手を染めたら、あんな船に乗せられるんだか。 犯罪ってのはな、バレないようにこそこそ小さくやるもんなんだよ。一発ドデカくやっちまおうなんて奴は、俺からしてみりゃあ愚かの極みって感じさ。 ヘッ、ここら辺の海底に落ちてる古代の機械は集めりゃ結構な金になるんだ。やばい、俺って本当に賢すぎて、最高にイケてるぜ。
波風の立たない海を眺めていると、不思議な気持ちになるの。そして、いろんなことを考える。何も起きないってことは本当に良いことって言えるのかなとか、この海は何を思っているんだろうとか、私はどうやって生きていくべきなんだろうとか。答えが出るわけじゃないけど、でもこうやって考えることに意味はあるって思ってる。 ……ふう。もうちょっとこの仕事、頑張ってみようかな。
海上には強い風が吹き、荒波が立つと決まっている。陸とは異なり、海には風の魔力の流れを遮る物がほとんど存在しないからである。しかし、この海域だけは例外だ。周辺海域でどんな嵐が起きていようとも、この海だけは決して荒れることがないのだ。 物事の例外には、深い理由が存在して然るべきだ。私はこう推察する。風の魔力の流れを打ち消す"何か"が、隠されているのだと。しかし、ここまで来てなおその手掛かりは一向に見つけられない。……諦めるものか。学者の本分は、失敗と前進にあるのだから。
シリーズ:気候学者の推察
あれは「キカイ」で合ってんのか? 牛の形をしたやべえヤツが襲ってきて、大騒ぎだった。アイツらはさすがに負けなかったみてえだが、何やらまずいことが起きてんじゃねえかって会議はしてるみてえだ。まあ細けえことは俺には関係ねえが、あんなキカイがもしもこれからも大勢出てくるってんなら、それも大航海って感じで良いじゃねえか? なあ?
監獄送りにされることが決まった囚人のほとんどは、監獄に輸送されているこの段階で脱獄の準備を始めなければならないことに気づいていない。監獄の周辺環境の観察や、囚人の輸送法や輸送頻度の把握など、今しかできないことは多いのだ。金に困っている看守と繋がりを持つことだって可能かもしれない。 後になって「あのときああしていれば」などと思わないように、できる準備は全てしておく。それが名人のやり方だ。
「状態異常」には様々な種類がある。それらを駆使することは、戦いを有利に進める上でとても重要だということは、前にも話したはずだ。 今回はその上級編だ。この世には、敵や君自身がある状態異常になっているときにのみ特別な効果を発現する装備が存在する。「自身が毒状態のときにだけ、毒の威力が上昇する短剣」などがその例の一つだ。使いづらい……と思ったかもしれない。しかし、これらの装備をどう上手く活用するか。それを考え始めることができれば、君は探検はもっと素晴らしいものになるはずだ。
シリーズ:探検のススメ
海の森には隠されたお宝がある、なんて誰が言ったんだろう? どこを探してもお宝どころか、遺跡や小さな島すら見当たらないんだ。 今まであまり考えたことなかったけど……僕って、もしかして騙されやすい性格なのかな? かなりショックだけど、これもまた気づきの一つだ。これからは騙されないように気をつけて、"したたかさ"ってやつを身につけていかないとな。あんまり……自信はないけど。
シリーズ:新米冒険者の気づき
虫ってのはどうも苦手だ。こそこそ動き回ったり血を吸ったり死体に大量に湧いたり、気色悪いったらねえ。 今日、海の森でリューゼスのヤロウがニヤニヤしながら近づいてきて、「肩にでけえ虫がついてるぜ。お前の新しい子分か?」ってほざきやがったんだ……。アイツにバカにされると頭にくるから、その虫を平気な顔して握りつぶしてやった。アイツのつまんなさそうな顔はケッサクだったが、手の平に残ったあの感触は……思い出したくもねえよ。
この通行許可証さえあれば魔物に襲われる心配がないことは十分に理解しているものの、蒸気の海を抜ける際にはどうしても気が張ってしまう。 もしもこの輸送船が沈み、囚人が逃げ出すなどということになれば、我が小国の信用は落ち、危険な罪人たちを自国に収容・管理していかなければならなくなる。それ以外にも問題が山積している我が小国に、そのような余力などないだろう。無事に囚人を届けなければならない私の責任は、とてつもなく重いのだ……。
こんな噂話がある。監獄島の周囲を覆う蒸気の海を抜けると、船に乗っている人間の数が、一人増えていることがあるらしい。誰が増えたのか、調べてみてもなぜかわからない。そのまま夜が明けると、今度は一人減っていて、元の人数に戻るんだと。それでほとんどの人間は安心するらしいが、賢いヤツだけがそこで気づく。もしかすると誰かが消されて……何者かに"入れ替わって"しまったんじゃないか、ってな。
この蒸気の海で生態調査ができるなんて、信じられないわ。本部は監獄島にどれほどの大金を積んだのかしら? まあそれも、私には関係のないこと。蒸気の中には、"姿を消す魔物"が潜んでいると聞いてるわ。ふふ……いったいどんな顔をしているのかしら。その透明のヴェールを剥がすまで、絶対に帰ってやらないわ。
シリーズ:魔物生態研究報告書
考古学者の間で実しやかに囁かれる一つの噂があった。「ある火山島には、古代戦争に使用された脅威の兵器が眠っている」と。噂の出所はわからない。くだらないと一蹴する者がほとんどだが、私の敬愛する友人は違った。 彼は、監獄島と呼ばれる謎多き島に機械兵器が眠っていると推察し、単身向かった。しかし……以来、彼からの連絡はない。かくして私も彼の後を追い、こうして監獄島への潜入を試みているわけだ。この蒸気に覆われた海を抜けたら件の監獄島に着くはずだ。いったい何が待ち受けているのか。私の指が震えてしまうのは、恐れからだろうか、あるいは興奮からだろうか。それすらも今は、わからない。
シリーズ:考古学者の知見
魔海域の他にもいろんな海があるもんだぜ。蒸気の中にはやべえ魔物もいるから、この先の監獄島からの脱獄がムズいって話だ。 だが正直なとこ、そこまでして脱獄って防ぎてえもんか?って俺は思うがな。悪いヤツなんて世の中に溢れてんだから、ちょっとくらい脱獄者がいたって何にも変わんねえだろ? それがイヤなら監獄に入れずに最初から殺しちまえばいいだろ? 偉いヤツらの考えってのは、よくわかんねえな。
この監獄島には、たくさんの囚人が暮らしています。しかし、彼らのことを、決して蔑んだり哀れんだりしてはなりません。こうして祈りを捧げる私たちと罪を償おうとする彼らとの間に、違いなどないのです。 私たちは皆、生まれながらにして罪人。全ての生は、罪を償うために与えられた試練なのですから。
あの満月の晩、私たちは港町の警邏を担当していました。火山がいつもよりも静かで、「今夜こそ"悪しき者"が現れるのではないか」と相棒と二人で冗談を言いながら港町を歩き回り、夜更けには城に戻ってきました。 そこで……私は違和感を覚えました。暗闇の中で、屋敷の正門がわずかに開いていたのです。「監獄卿のお孫さんがまた"夜の探検"にでも出てしまったのか」とそのときは思いました。しかしそれは……間違いでした。 もしもあの晩、警邏の担当ではなかったら、私たちもあの惨劇に……。そんなことを考えてしまう私は、看守失格でしょうか?
私、大人になったら結界守になりたいなあ。看守もかっこいいなって思うんだけど、監獄に囚われてる人たちってやっぱり……ちょっと怖いから。それに、結界守の方が、町を守ってるって感じがするよね。結界がなかったら、噴火で飛んでくる岩とか火の玉とかで町は大変なことになっちゃうんだから。 ……まあ、あともう一つ理由があるんだけど、結界守のおじさん、いっつも本を読んでるだけなんだよね。すごくその、楽な仕事なのかなって、思ってるの。ふふ、どうせ仕事をするなら、楽な方がいいに決まってるよね?
この魔法結界は、かつてこの島を訪れた偉大な賢者が作ったと言われているんだ。我々がこの危険な島に暮らすことができているのは、その賢者のお陰だというわけだ。ん、その賢者の名前? ううむ……何だったかな。ゼイルだか……サインだか、そんな感じだった気がするが……。次回までにおじさんが調べておくよ。今日のところは、勘弁してくれないか?
竜の棲む場所は、人間にとって過酷な環境であることが多い。その意味で、監獄島の恐ろしき火山にも竜が棲んでいるのではないかと思ったが、その考えは間違っていなかった。古い文献にたった一つ「火の山と地に堕とされた竜」という言葉が登場したのだ。あの火山には竜が棲んでいるのではないか? 私には、真相を確かめる責務がある。しかし目下の課題は、監獄島への侵入方法だ……。
シリーズ:ドラゴンハンターの日記
監獄だらけの島には、火山の噴煙で燻しながら焼いた絶品ステーキがあるらしいわ! しかも一口食べるだけで、その人の罪が半分に減るっていう噂じゃない! この私に罪なんて一つもないでしょうけど、罪を減らすほどの味が本当に気になって仕方がないわ! しかも、何の肉を焼いているのかについての情報が一切ないじゃないの! まさか罪人の肉なんてことはないと思うけど、今すぐに監獄島に潜入して確かめてきなさい! もしも保存の利く燻製肉だからってゆっくり持って帰ってきたら、あなたも監獄送りにしてあげるわ! 覚悟して頂戴!
シリーズ:グルメな命令書
謎多き監獄島との交易は、特別な専売許可が必要だよ。許可が得られれば利益を独占できるけど、美味い話にはデメリットが付き物なんだ。 どうやら、許可を貰った商人は「監獄島の内部のことを口外してはいけない」らしいんだ。自分の口は重いから大丈夫と思っていても、気が緩んだときに口にしてしまうかもしれない。それに、もし口外したらどんな拷問を受けるか、あるいは殺されてしまうか、わかったもんじゃないよ。得体の知れない奴らには関わらないのが一番なんだ。わかったね?
シリーズ:見習い交易商人のメモ
周辺の国々では「監獄島に入ったら二度と出られない」などと言われているようですね。しかし、私たちも監獄卿に許可をいただけば島外へ出ることも可能ですし、そもそも私たちは望んでこの島に住んでいるのです。 監獄卿は素晴らしい御方です。行く当てのなかった私たちに手を差し伸べ、住処と仕事を与えてくださりました。周囲からはそう見えないかもしれませんが、監獄卿は常に私たち島民や囚人たちのことを想っておられます。願わくばこの慎ましい生活が、ずっと続きますように。
監獄島なんてやばそうな名前をしてるからどんな感じかと思ってたら、港町は結構普通じゃねえか。まあ山が火とか岩とか煙とかを噴き上げまくってるのは異常ではあるがな。 それにしても、世界を救うっつう目的には、なんつうか……ぴったりな場所だ。物知りな仲間が「火山のてっぺんには悪の親玉がいるってのがジョーシキだぜ」っつってたんだ。確かに俺もそんな物語をちらっと聞いたことがある。 さあ、ここからアイツらは火山に登って悪の親玉と戦うんだろ? ……と思ったが、看守と戦ってねえか? 何してんだアイツら。
罪を咎められた者の前には、二つの道が続いている。一つは、自らの愚行を悔やむ贖罪の道。もう一つは、世界の全てを恨む独善の道。 しかし、どちらを選択したとしても、未来はさほど変わらない。君がこの監獄の冷たい床の上で息を引き取ることは、もう決まってしまったのだから。
あーあ。どうしてあんなヘマしちゃったんだろう。いつもだったらもっと上手くできたのになあ。まあこれも反省ってことで、ぱっぱと罪を償ってまた仲間のところに戻ろう。大金を稼ぐついでに運命の人まで見つけちゃって、幸せな家庭を築いちゃおっかな。 えっと、私の刑期って何年だっけ? え……333年? やば。
監獄迷宮のどこかに、千年刑を宣告され、死することも許されない極悪人が囚われているという噂がある。懺悔にも飽きてしまった私は、いつからかその者の捜索にのめり込んでいった。 しかし、監獄迷宮の構造はあまりに複雑で、未だに全貌を把握できていない。本当に……囚われているのだろうか。私は湧き上がる好奇心を抱いて、今日も監獄迷宮の奥深くへと潜っていく。
どうやらこの監獄迷宮には、魔力を制限する結界が張られているらしい。外側から転移魔法で監獄内に囚人を送ることは可能だが、囚人が魔法を使って外に出ることは不可能な仕組み。くわえて、看守が直接この監獄内に来ることはほとんどないようだ。実にシンプルでよくできた脱獄防止策だ。 これはすぐに脱獄することは難しいかもしれない。しかし……焦っても仕方がない。まずは情報を集めるところから始めよう。
城内は血まみれでした。城内警備を担当していた仲間の死体が廊下に転がっていて……何かを引き摺るような血の跡が続いていました。 私たちは震える足で、それを辿りました。そして……食堂で見つけてしまったのです。監獄卿とご家族が、一人残らず……。血溜まりが月明かりを……あのような殺戮は……まともな人間のすることではありません。いえ、悪しき者の仕業だとしても、あれはあまりに……。 私たちは助けを呼ぼうと思ったのですが、情けないことに……腰が抜けて足が動かなくなってしまいました。しかし、そのとき、看守長の服を着た……えっと、そう……ティルフィさんが来て……言ったんです。「私の好きだった監獄卿は、亡くなってしまいました」と。その声があまりに冷静で……私は、なぜか安心したのを覚えています。
おいおい、やべえぞ……。リューゼスもアイツらも、甲冑の男に消されちまった……。トルリの旦那だけはなんとか逃げてきたみてえだが……。アイツらがそう簡単にくたばるわけねえって今は信じるしかねえ。 しかし……港町のヤツらは良いヤツばかりで助かったぜ。どうやら前のカンゴクキョウとかいうヤツは、ずいぶんと慕われてたみてえだ。あの甲冑の男はそれを全部ぶち壊しちまったってワケだ。 ん? それってやっぱり悪の親玉ってヤツじゃねえか?
盗掘マスターを目指す君へ! 一度捕まったくらいで夢を諦めてはいけないよ! 「失敗のない偉人はいない」って成功者は口を揃えて言うんだ! どうして捕まってしまったのかをまずは考えよう! そして次に脱獄だ! 脱獄に成功したら、これからは入念な下調べを行って、誰にも見つからないように慎重に盗掘するんだ! ほら、また一歩盗掘マスターに近づいた!
シリーズ:盗掘の極意
監獄島に関する情報はものすごく少ないわ! でも、私のグルメ情報網をあんまり舐めないで頂戴! 監獄島の囚人には、年に一度だけ豪勢な監獄食が振る舞われるらしいわ! それがどんな料理なのかはわからないけど、あまりに美味しすぎて囚人たちの間で奪い合いの大乱闘が起きるらしいじゃない! やっぱりあなたは監獄送りよ! もう根回しは済ませたわ! 適当なタイミングで出られるようにしてあげるから、安心して服役してきなさい!
シリーズ:グルメな命令書
新しい監獄卿は……私たちを恐怖で支配しました。いつ殺されてもおかしくない状況……。まだまだ新人の私がこの仕事に対して持っていた小さな誇りも、それを尊重してくださった先代の監獄卿も、穏やかな生活も、全てが一晩にして奪われてしまったのです。 怒りと悲しみと恐怖。しかし無力な私たちには、何もできなかった。……いえ、何をすれば良いのかわからなかった。そんな私たちに「表向きは新しい監獄卿の命令に従うべきだ」と道を示してくれたのはティルフィさんでした。そして私たちは、彼が提案した作戦に命を懸けることにしました。外の世界から来るという者たちに……運命を委ねるために。
——傭兵ダムレイ。 契約を違いし者には、然るべき制裁が与えられる。永遠に抜けることのできない牢獄に、君たちを送ろう。しかし、もしも牢獄から抜け出せたのなら、もう一度だけ機会をやっても良いだろう。君の全ての望みを叶える機会を、だ。以上。 名もなき者ども
シリーズ:傭兵の契約書
俺の罪が、赦されることなどあるはずがない。全ての過ちはこの身の奥底に深く刻まれている。血を流し続けるこの傷と共に生き、苦しみの中で死んでいかなければならないのだ。 だが……ここで諦めるわけにはいかない。皆を必ず救う。もう少し……待っていてくれ。
シリーズ:とある傭兵の独白
死んだかと思った看守もぜんぜん死んでねえし、ティルフィとかいうスカしたヤツがアイツらを救いに行きましょうとか言い出しやがるし、何なんだよこりゃ……? トルリの旦那の知り合いっつうから悪いヤツじゃあなさそうだが、ヤツの態度にはなんかわかんねえが違和感がある。どうにも嘘くせえっつうか……だが、他に手がねえことも確かだ。クソッ、こんなときにリューゼスのヤロウがいたら……なんて思うのはやめろ! 俺たちがアイツらを助けに行くんだよ!
悪人と善人を分け隔てるものは何か? その答えの一つが「信頼」だ。善人は誰かを信頼し、誰かに信頼される。一方で、悪人は信頼をすることも、信頼を得ることも難しい。 つまり、もしも君たちが誰かと真なる信頼関係を獲得したのであれば、きっと贖罪を果たしたということなのだ。
なるほど、双子塔か。わざわざ脱獄方法を用意してくれるとは、おあつらえ向きだ。 しかし、本当にこのまま塔に登り、魔方陣に触れても良いのだろうか。これまで私は単身で脱獄に成功してきた。誰かを頼るなど、あまりに不確定要素が多すぎる。 なんとか仲間を集めることには成功したが、彼らが信用できる人物かどうかは、未だわからない。……本当に良いのか? もっと確実な脱獄方法を探すべきではないか?
「ねえ、お兄ちゃん。罪って何?」「妹よ。罪とは、人間が持つ穢れのことさ」「じゃあ、お湯を浴びれば罪は流せるんだね?」「いいや、罪は心にこびりついていて、お湯じゃあ流せないのさ」
「ねえ、お兄ちゃん。贖罪って何?」「妹よ。贖罪とは、善いことをして罪を赦してもらうことさ」「じゃあ、善いことって何?」「善いこととは、それが善いことだってみんなが思っているだけの、本当はあまり意味のない行為のことさ」
「ねえ、お兄ちゃん。足枷って何?」「妹よ。足枷とは、その足首に繋がっている金属のことさ」「どうして、私たちは足枷をしているの?」「それは僕たちが、神に逆らう大罪を犯したからさ」
「ねえ、お兄ちゃん。本質って何?」「妹よ。本質とは、隠されて見えないけど、一番大切な部分のことさ」「どうして、大切なのに隠されているの?」「大切なものほど、見えない場所に隠したくなるものなのさ」
船が溶岩の上を進んでるってのに、全然燃える気配がねえ。ティルフィのヤツの特別な力のお陰らしいが、アイツ本当に人間かよ? だが、これで助けに行けるぜ。大人しく待ってろよリューゼスのヤロウ。「今度は世界を救いに行くぜ」っててめえが言ったから、俺はまだ船に乗ってんだ。こんなとこでくたばったら一生許さねえからな。
本当に珍しいことなんだけど、溶岩が逆流することがあるの。麓の溶岩湖から山腹を登って、頂上へと戻っていくんだ。 天変地異の前兆だとか悪魔のいたずらだとかって騒ぐ人もいるけど、当然のことなんじゃない?って正直私は思う。私たちだって、息を吸っては吐いてを繰り返しているでしょ? 物事の全ては循環なの。火山だって、溶岩を吐いているだけじゃきっと"息苦しく"なっちゃうと思うんだ。
……なんだかすごいことになっちゃったなあ。こんな僕のこともいつも気に掛けてくれた監獄卿が亡くなっちゃったのは、本当に哀しいよ。監獄卿の奥さんの料理はいつも美味しかったし、息子さんたちはすごく頼もしかったし、元気なお孫さんと遊ぶのも楽しかった……。 ねえ、もしも火山の聖獣がこれを聞いているなら、教えてほしいんだ。どうして良い人たちが先に死ななくちゃならないんだい? こう言うのは良くないってわかってるけど、この島にはもっと悪いことをしてきた人たちがたくさんいる。それなのに、どうして? ……教えてよ。じゃないと……この世界はものすごく歪で、恐ろしいくらいに不公平ってことに……なっちゃうからさ……。
赤い山が怒り狂っている。穢れ多き世界に一石を投じ、欲望にまみれたちっぽけな人間たちの生を糾弾するかのように。 僕はなぜ、こんな危険な島まで来たのだろう。罪に咎められたわけじゃないし、誰かに強制されたわけでもないのに。 ……いや、本当はわかってるんだ。この島に来れば赦されるかもしれないと思ってしまった。そう……僕は赦されたかった。赦されたら、この孤独も終わるんじゃないかって、そんな甘い幻想を抱いてしまったんだ。
シリーズ:孤独な旅人の呟き
やっぱりアイツらは無事だった。まあ、心配なんてこれっぽっちもしてなかったが。 だが……古代人のお嬢ちゃんは攫われちまったらしい。悪の親玉め、えげつねえことするじゃねえか! 逆流する溶岩だかなんだか知らねえが、そんなのはどうだっていい。俺は今、すげえ燃えてる。悪の親玉から仲間を救ってこそ、英雄ってヤツだろ。なあ?
燃え盛る火山の頂上には、聖なる心を宿した幻獣が棲んでいる。筋骨隆々の黒い身体、二本の赤い角、そして周囲に纏った灼熱の炎。幻獣はその荒々しい外見とは裏腹に、麓を静かに見守り続けてきた。 罪の意識に苦しむ人々に赦しを与えるため、幻獣は時折姿を変えて言葉を交わし、彼らの運命に干渉している。しかし、それが火山の聖獣であること気づく者はほとんどいない。人々の記憶すらも書き換えられてしまうからだ。 幻獣は今日も人知れず、皆の苦しみにそっと寄り添っている。
シリーズ:幻獣事典
一人の囚人が檻の中で呟いた。「僕は罪を償えるのだろうか」。すると若い男の声がした。「全ての罪は、いつか必ず赦されます。正しくあろうとする心を、胸に抱き続けていれば」。囚人が顔を上げると、鉄格子の向こうに見慣れない看守が立っていた。囚人は暗い声で言う。「僕は、正しく生きようとしてきたんだ。それなのに罪に問われた。でも……ずる賢く生きるヤツは間違っているのに捕まらない。正しくある意味なんて……ないんだよ」。 すると看守は囚人を見つめて言った。「全ての行動は、いつか自分に返ってきます。正しき行い、正しき反省を、見ている者が必ずいるからです」。囚人は項垂れる。「こんな暗い檻の中で……誰が見てるって言うんだ」と。 すると看守の優しげな声が聞こえてきた。「あなたが正しくあろうとしてきたこと。あなたが苦しみの海で藻掻いてきたこと。あなたが今も前に進もうとしていること。少なくとも私は全て、知っています」。囚人がはっとして顔を上げると、そこに看守の姿はなかった。囚人の目には、彼のいなくなったその空間に一瞬、小さな炎が揺らめいたように見えた。
シリーズ:吟遊詩人の詩
私が父から監獄卿の座を継いだ日、父に呼ばれ、監獄島の真実を伝えられた。この大地の下にはもう一つの世界があり、古代に作られた危険な機械が眠っている。そして、それらの機械を悪しき者たちに奪わせないことが、私たちに与えられた使命なのだと。 もちろん私は驚いたが、同時に納得がいった。なぜこの島は外部との接触をできる限り避けているのか。もちろん周辺国家から預かった囚人たちをしっかりと管理する目的があることは事実だが、それ以上に何か、より明確な理由があるのではと勘ぐっていたからだ。 人類の未来を守る。その重大な役目に、私はある種の興奮を覚えると同時に、一抹の不安を抱いたのだった。
その晩、私は不思議な体験をした。「火山の聖獣」と直接会話をしたのだ。 緊張した私の前に現れたのは誠実そうな青年で、私は拍子抜けをしてしまったことを覚えている。「あなたが新たな監獄卿ですか」と彼は丁寧な口調で訊き、私が頷くと彼は柔和な顔で微笑んだ。 それから私たちは一晩語り合った。まるで旧来の友人のように私たちは他愛もない会話に花を咲かせたのだ。本当にあれは、楽しい一時だった。 明くる日に彼は消えてしまった。しかし、彼がずっと傍にいてくれるのなら、きっとこの島を守っていくことができる。そして監獄卿としての役目を全うできる。私はそう確信したのだ。
ザルツァイト王国のトルリ公爵から届いた手紙を読んだとき、ついに何かが動き始めたのだとわかった。私の祖先が静かに守り続けてきた監獄島の秘密が暴かれるかもしれない。世界を救おうとする彼らの心に嘘偽りがないか、私自身の目で見極めなければならないと私は自分に何度も言い聞かせた。 あの晩に語り合った青年——火山の聖獣は、この事態をどう見ているだろうか。彼ともう一度だけ話がしたい。いつもよりも静かに煙を噴き上げる火山を見上げながら、私はそう思ったのだった。
ティルフィ……というかイフリートだっけ? ヤツは幻獣だった。幻獣って、あのセイレーンの仲間ってことだよな? まあ、とにかく良いヤツだったってわけだ。 だが、トルリの旦那はヤツに記憶をいじられて気づけなかったことが結構ショックだったみてえだ。「仕方ねえよ。旦那ももうすぐ棺桶に入るくらいの爺さんなんだから」ってちゃんと慰めてやったんだが、余計にヘコんじまった。なんか間違ったか?
我々が暮らすこの大地の"形"を、君たちはどう考えているだろうか? 遠くの彼方まで平坦な地面が続き、その先には大地の端がある。そう信じている者が多いだろう。しかし、我々天文学者の間では、この大地が球体であるだろうことはもはや常識となっている。 この大地に端は存在しないのだ。しかし、中心は存在する。我々が立つこの地面の下、大地の中心には何があるのだろうか? もしも火山の頂上からマグマ流に潜ることができれば、その答えがわかるのかもしれない。
地の底の世界で異変が起きていることを、私は知りませんでした。もしも古代の機械を復活させようとする者が来るのなら、それは地上からだと信じて疑わなかったからです。 私はあまりに愚かで、それ故に、私の罪はあまりに重い。あの不届き者に、監獄卿の一族をみすみす殺させてしまったことも……私の過ちです。私は必ず、あの者に罪を償わせます。
監獄卿よ、もう少し待っていてください。あなたの最期の祈りに、私は必ず応えますから。 そしていつかあなたに、謝罪をしに行きます。願わくばその後に、あの晩のような他愛もない会話をあなたと——いえ、それは高望みかもしれません……。
船でマグマの中に突っ込んで、この大地の下に潜っていくだって? やっぱり大航海ってやべえな! 「どうやって帰ってくんだよ」なんて野暮なことを訊くヤツはいねえ。仲間たちもみんな興奮しちまってる。やっぱり俺たちには、こういうのが性に合ってるな。
あんたのことはよく知らねえが、こんなクソみてえな酒場で会ったのも何かの縁だ。……あ? 酒がまずいのは事実だろ。いつも金を払ってやってるんだから、てめえはちょっと黙ってろ。 ……すまねえ、話が逸れちまった。まあとにかく、あの島に行くのは……やめといた方がいいぜ。俺の知り合いは誰も帰ってきやしねえ。神父の隠し財産だか、貴族の遺産だかなんだか知らねえが、ありゃ罠だ。……俺の勘がそう言ってる。命がなけりゃ、大金を見つけたって意味ねえんだ。バカな考えは捨てて、まずい酒をこうして飲んでる方が……俺は賢いと思うぜ?
クソッ、なんなんだよこの島は……! 最初から確かに、違和感はあったんだ……。船から降りたとき、足元にいた小さな蟹を踏んだ。それ自体はなんでもないことだが、その直後にひどい頭痛に襲われたんだ。健康自慢の俺に、頭痛なんてあり得ないことだった。……思えばあのときに戻っておくべきだった。あの小汚えおっさんの言う通り、俺は財宝に目が眩んだバカだ。 ……細かいことはわからないが、おそらくこの島では、俺が何かをすれば"それが俺に返ってくる"。考えろ……。魔物が蔓延るこの島から無事に脱出するにはどうすればいい?
私の財産の全てを、君に託す。君だけは、私を無下にしなかった。君だけは、私の言葉を信じた。 君がその財産で何を為そうと構わない。それが世の秩序に反することであっても……だ。君のような無辜なる人間が投獄されてしまうこの世界に、完璧など存在しない。善悪の基準さえ、その者の捉え方次第なのだから。君は君が正しいと思うこと——君の為すべきことを為せばいい。私の財産が、その助けになれば幸いだ。
平等など、存在するはずがない。不平を声高に唱える者は、善人ぶっている世間知らずだ。公平性というありもしない幻想を追い求める愚者。大した苦労も努力もしていないくせに、自分が劣っている点の責任を社会や他人になすりつけて叫び出し、他人を貶めようとする自分勝手な人間。 そういう人間に限って、自分が優位に立っているときは、何もしようとしない。何も言わない。何も気づかない。本当に公平な世界を作りたいのなら、その醜悪で身勝手な心をまずは改めなければならないというのに。
俺は平等な世界を作ろうとは思っていない。ただ、公平性という剣を振りかざして他人を貶める人間に、同様に公平性という剣で身を切られる覚悟があるのか確かめるだけだ。他人の物を奪うのなら、他人に物を奪われても構わないのだろう。ありもしない幻想を身勝手に望むのなら、そのありもしない幻想に殺されても文句を言う筋合いはないはずだ。 さあ……俺から奪った全ての物を、お前たちから奪い返してやろう。人はこれを「復讐」と呼ぶかもしれない。しかし、これはとても公平な——お前たちが嫌いな不平等を是正するための……お前たちが望んだ行為なのだ。
——世の歪みに歪まされし者よ。恨みの炎に身を焦がす覚悟があるか? その魂と血肉の全てを捧げれば、お前に力を与えてやろう。自らの思想に妄執し、その歪みを以て歪みを押しつける"復讐者"としての力。そして、お前の魂の内に眠る……竜の力を。
こんな大きな機械獣を設計するなんて、やはりロキさんは天才だよ。機械設計に基礎が必要なことは当然だけど、それ以上に重要なのが新しい発想、つまり独創性なんだ。これ――いわゆる十三番目の機械獣は、独創性の塊だよ。 ロキさんは古代人の真似事だって謙遜してたけど全然そんなことない。設計図を見て私は腰を抜かすほど驚いたんだ。あまりにその……見たことのない要素が多すぎて。私もいつか、ロキさんみたいなすごい機械技師になれるかな。
一番目の機械獣が現れたとき、多くの人間が殺された。俺の妻と娘も、その中にいたんだ。そりゃ……怖かったはずだ。 涙はもう涸れちまったし、いつまでも悲しんでても仕方ねえ。だから俺は、とにかく鉄を打つ。俺の打った鉄が、誰かの手に渡り、そして役に立つ。そうやって地道に一つ一つ積み上げていきゃ、いつかきっとあの頃みたいな平和にも手が届く。そうすればもう、俺の妻と娘のような怖い思いをする人間は……生まれねえはずだ。
銃って誰でも使いやすいけど、ちょっといまいちな時もあるんだ。基本的には連発が難しいし、威力が銃の性能に依存しちゃう。だから、銃と弓のどっちを使うか、常に臨機応変な対応ってのが重要なのさ。わかった?
我が魂はチェンソーと共にある。どんなに厳しい戦場も、この回転刃と共に切り抜けてきた。 ここしばらくは出番を与えてやることはできなかったが、調整を欠かしたことは一日たりともない。機械も我々の健康と同じ。日々の管理が何よりも重要なのだ。
近頃は熱意ある有望な若者が多くて嬉しい限りじゃが、ワシはまだまだ軍隊長の座を後進に譲る気などないぞ! 重要なのは若さではなく、筋力と気力なのじゃ! さあ、今日も筋トレ、鍛錬、稽古、そしてその後に酒じゃ! 機械獣なぞ、いつかワシがこの拳で全部壊してやるからのお!
この砦に逃げ込んだあたしたちの楽しみは、もう美味しい料理しか残されてないって言ってもいいのさ。限られた食材を駆使してとにかく皆を喜ばせるのは、楽しいったらないね。 砦の裏手にある水脈では、タコが揚がることがある。気持ち悪いって思うかもしれないけどね、塩に漬けたタコをマグマの熱でじっくりと焼いて食べると、これがまあ絶品なのさ。ああ、あたしも早く食べたいねえ。
若くして参謀長まで上り詰めた鬼才ロキ。彼が命を削って設計した独自の機械獣は、まさに「十三番目」を名乗って良い代物でしょう。 十三番目のモチーフは、石と鉄の民に加護を与える炎の聖獣イフリート。御伽話の通り、機械の聖獣が我々を救う救世主となることに、皆が期待しています。 古代人たちが作った十二の機械獣は自律駆動型である一方で、ロキの十三番目の機械獣は搭乗者が操縦する必要があります。この発想もさすがと言わざるを得ません。機械作製で最も難しい部分が、細かい駆動制御と臨機応変な対応を実現することですから。それらを同時に解決するのがまさに搭乗型。彼の発想とその実現能力には、何度も驚かされますね。
まさか、大地の下にこんなでけえ空間があるなんてな。しかもそこに人間が住んでんだ。やばすぎるだろ。 なんか知らねえが、アイツら今度は地底人たちと戦ってるみてえだ。アイツら、挨拶が終わったらとりあえず戦わなきゃ気が済まねえのかよ。俺たちより血の気多いんじゃねえか?
俺は見たんだ。誰も信じてくれねえが、ちょっと尿意が我慢できなくてよ、まあその、脇道に逸れてしょんべんしてたんだ。 ……そしたらな、遠くからカナリアの鳴き声が聞こえてきた。そう、あのカナリアだ。坑道の毒ガスを検知する鳥。籠から逃げちまったのかと思って、ちょっとあたりを探してみたんだ。でも全然見つからねえ。鳴き声はしてるのに、だ。 それで諦めて帰ろうと思ったとき、ふと気配がして、天井を見上げたんだ。するとな……そこに、でけえカナリアの化け物が、口を開けて……。それで俺は、必死に逃げ出してきたってわけさ。夢中で走ったから、いろんなとこ怪我しちまった。おい……お前は信じてくれるよな?
こんな世界で生き延びるには、助け合いが必要なの。機械に無駄な部品が一つもないように、無駄な仕事なんて一つもない。みんなが一人残らず集まって、世界っていう大きな機械が動いてる。 だから、みんなの考え方や得意なことが違うのは当たり前だし、個人の苦手なことに注目なんてしたってしょうがない。それぞれができることや好きなことををやる。それでいいんだって私は思ってる。 ああ、今日こそ珍しい鉱石が見つかるといいな。
篝火は不思議だ。眺めているだけで心が落ち着いてくる。滅びの足音が聞こえるこの世界でも皆が懸命に生きていられるのは、きっとたくさんの篝火が焚かれているからだ。 たとえ俺がこの世界の最後の一人になったとしても、篝火の炎だけは決して絶やさない。俺たちが滅んでも希望は潰えないのだと、奴らに示してやるのだ。それが俺の役目。誰もが絶望するような状況に陥っても、俺だけは絶対に諦めてやるものか。
昨日の大宴会はヤバかった。地底の料理も酒もなかなかイケてたし、ドワーフのヤツらは気の良いヤツが多くて最高だ。将来はここに住むってのも悪くねえかもな。ちょっと暑すぎんのがアレだがな。 しかしリューゼスのヤロウ、散々自慢話しながら酒をガブ飲みしてたが、今頃ひでえ二日酔いだろうな。てめえはアイツらと一緒に行くんだから、ちょっとは我慢しろっての。まあ、俺も頭がやべえくらい痛えんだがな。
クリスタルってどうしてあんなに綺麗に輝くんだろう? 他にもいろんな石があるけど、目が離せないくらいに綺麗なのはやっぱりクリスタル。 ……あ、もしあのクリスタルで指輪を作ってあの人に渡したら、私の気持ちに気づいてくれるかな……? 明日家を抜け出して、クリスタルを探しに行ってみようかな。ちょっと危ないかもしれないけど、大丈夫だよね。私だって石と鉄の民の一員なんだから。
最初の機械獣が復活し始めてから、私たちはたくさんの苦労を重ねてきたわ。哀しいことだって数え切れないほどあったの。それでも、私たちはここまで挫けずに生き延びてきた。それはね、きっと皆が手を取り合ったから。一人では倒れてしまうような辛い道のりでも、誰かと励まし合えば乗り越えられる。 戦争は私たちからたくさんのものを奪っていったけれど、同時に私たちはたくさんの大切なことに気づくことができたの。それを抱きしめていれば、私たちはきっとこの戦争が終わる日を迎えることができると思うわ。
私たちは次々と復活を遂げる十二の機械獣から逃げ隠れするように生き延びてきました。しかし、我々の安全を脅かす機械は他にも存在します。機械獣の復活以前からこの世界を彷徨い続けている、「野良の機械」です。 野良の機械の中には、鉱石の採取、部品の作製と組み立て、機械の修復などを自律して行うものもあります。つまり、彼らは自己増殖を行っており、その行為は生物のそれと何も変わりません。まったく古代人の技術は、本当に素晴らしくも恐ろしいですね。
実はね、食べられる石ってのがあるんだ。初めて食べた奴ってのはちょっとどうかしてるとは思うけど、まあそいつに感謝だね。 黄色く輝くその石は「卵石」って呼ばれてるんだ。固い卵石をお湯に入れて茹でると、石の内部だけが柔らかくなる。冷やしてから"殻"を剥くと、中からぷるぷるの"卵"が出てくるってわけさ。 これをそのまま食べてもいいけどね、さらに一手間、貴重な暗黒唐辛子ソースを掛けてからパンに挟んで食べるとこれがまあ爆発するくらいに刺激的で最高なんだ。あの堅物大将軍もこれが大好物でね。心労が溜まってそうなときに持って行くと、機嫌が簡単に良くなるのさ。
俺たちはドワーフのヤツらに呼び出されて、地上のことを根掘り葉掘り聞かれてる。まあわかる分は俺も答えてはいるが、俺たち船乗りは頭が良いわけじゃねえから、だいたいはトルリの旦那が答えてくれる。こういうときはホント頼りになるぜ。 だが、トルリの旦那、ロキとかいう車椅子のヤツを随分と気に入ったみてえだ。「地上でも滅多に見ないほどの逸材だ!」とかなんとか、目を輝かせて叫んでたな。ありゃまずいぜ。旦那は、天才の原石やら才能の光る子供やら、そういうのを見つけたらすぐに金で囲って育てるのだけが生きがいの超人材育成マニアだ。ロキとかいうヤツを養子にするとかそのうち言い出すんじゃねえか?
私はあの日、ロキを誘って禁足の風穴を登りました。深い暗闇が続く縦穴の先に地上が見つかれば、みんなが助かる。そんなふうに思ったことは確かです。 しかしそれと同時に、両親を亡くしたばかりの私は、何かに縋っていないと耐えられなかったのでしょう。そして縋ったのは、ロキがくれた「青空はきっとある」という言葉でした。 ……あの頃の私は幼くて、愚かでした。
私たちはまだ子供でしたから、風穴を登るのは簡単なことではありませんでした。ですが、あのときの私の心は希望に満ちていて、失敗など想像もしませんでした。危険な場所も、ロキと二人なら乗り越えられると信じて疑いませんでした。 機械獣の復活からずっと不安げな顔をしていたロキもとても楽しそうにしていて、もうこのままずっと二人で風穴を登り続けるのもいいかもしれないと、そのようなことすら思っていました。
頂上に扉が一枚だけあるのを見たとき、私は確かにとても落胆しました。しかし、それ以上にロキのことが心配でした。ロキは全部の自分のせいと考えるのではと思ったからです。本当は私が無理矢理誘ったのが原因なのにもかかわらず、です。 だから帰り道に私たちが足を滑らせたあの瞬間、私はすぐに「罰が当たったのだ」と思いました。そして、落下している間、私はロキの瞳を見つめて願いました。「悪いのは私です。どうか罰を与えるのは、私だけにしてください」と。
願いは叶いませんでした。私は右腕を失っただけで済んだのに、ロキの両足はもう二度と動かなくなりました。私の罰の方が、ずっと軽かったのです。 だから私は、決めました。いつか重い罰を受けるその日まで、ロキを支え続けると。 それにロキは、「青空がきっとある」と言ったことを後悔しているようでした。でもそれは私にとって、希望の言葉だった。だから、もう一つ決めました。ロキを嘘吐きにしないために、ロキを後悔させないために、私だけは地上の存在を——奇跡を信じ続けると。
地底世界では、太陽も月も見えねえ。どれくらい経ったのかが全然わからねえから、なんか変な感じだ。 だが一応、地上の昼と夜にあたる時間で、風向きが変わってるみてえだ。ああ、ちょっと太陽が恋しくなってきた。やっぱり将来ここに住むのはやめにしよう。俺には太陽の下で潮風に当たってるのが合ってるぜ。
私は魔法が苦手だった。ううん……苦手なんてもんじゃない。ぜんぜん、これっぽっちもできなかったんだ。 「ダークエルフなのに」。私はその言葉が大嫌いだった。私のことを気に掛けてくれる優しい人もいたけど、それでも自分がどうしようもなくダメな人間だっていう意識はずっと拭えなかった。 でも、村の裏山で古代の機械の残骸を見つけたあのとき、私の胸の奥にずっと引っかかってた何かがすとんと落ちて、目の前の景色が急に鮮やかになるのを感じたんだ。
あの日から私は、機械製作にのめり込んでいった。はじめはガラクタばかり作ってたと思う。でもとにかく試作して、失敗して、また試作して。私にはそれが楽しかった。魔法の練習では決して味わうことのできなかった成長が、そこにはあったから。 私はいつも油と煤まみれで、工具を腰にぶら下げて、鍛冶屋に通ってた。「女の子なのに」。そんな言葉も耳にするようになったけど、もう気にならなくなってた。"好き"ってそういうことだって、わかったから。
機械についてちゃんと勉強するために、私は町を出ることにした。そして、アルテスと出会ったんだ。みんなとの冒険は、本当に楽しかった。世界中に残された機械を研究して、身体の不自由な人に機械の補助具を作ってあげたりした。そのうち「慈悲の機械技師」なんて呼ばれるようになって、私は思ったんだ。もう私は"ダークエルフ"でも"女の子"でもなく、"機械技師ヴァーニア"として生きられるようになったんだって。 冒険の果てに、私たちは選ばなくちゃいけなくなった。みんなが幸せになるためにはどうしたらいいか。考え抜いた末に決断した。でも、新たな苦しみもたくさん生まれてしまった。……勝手だって思うかもしれないけど、あとはあなたたちに全部、任せたい。お願い、この世界の苦しみを救って。あなたたちの慈悲で……ね。
正直に言うとね、アルテスって、私からするとあんまり論理的じゃないときがあると思うんだ。だってさ「それは難しいんじゃない?」って思うような提案も、平気な顔でするんだもん。でもその論理を超えた理想っていうのが、私にはすごく魅力的に見えたの。 それに私は……すごく感謝してるんだ。アルテスは私の機械好きの部分を、ちゃんと認めてくれた。「堂々とすればいい」ってあなたが言ってくれたから、私はここまで来られた。本当にありがとう。また、みんなで冒険したいね。永遠の時間があったから、新しい機械をいろいろ考えてたんだ。ふふ、披露したらみんなどんな顔するかな?
城壁の上に登って遠くを見りゃ、赤い海が広がってる。そんで普通にキカイってヤツが動き回ってる。 しかしまあ、ドワーフのヤツらはよくこんな場所でずっと生き延びてきたぜ。しかも、ヤツらは全然暗くねえんだ。希望ってヤツを持ち続ける大切さを知ってんだろうな。リューゼス、頼んだぜ。ヤツらがこれ以上苦しむのは、見てられねえや。
隠し砦ラスタルファは機械の攻撃が及ばないから良いんだが、一つ不満があるとすれば……温泉がないってことだ! もちろん砦にも水源はあるが、温泉として使えるかっていうとかなり微妙だ! やっぱり入るってなったら、大水脈の温泉群だろ! 入りに行きたくてたまらないが、機械や魔物に襲われたらひとたまりもない! どうする、俺! 命懸けで行くか!? ……いや、よく考えろ。無事に帰ってこれたとしても、もし抜け出したことが大将軍にバレたら、あのチェンソーで……。どうする……俺?
機械の中には、蒸気の力を利用して駆動力を上げているものが存在します。これらの機械はオリハルコン単体で駆動する機械に比べて破壊力が高い傾向にありますが、その一方で大量の水を必要とするという欠点があります。水辺が近くにない場合はガス欠状態になり、動けなくなるということも珍しくありません。 逆に言えば、水辺に現れる機械が蒸気式であることが多いため、その破壊力には十分気をつけるべきでしょう。
大水脈ってあるだろ? あそこの水の流れを遡っていくと、「奇跡の源泉」に辿り着くって伝説があるんだ。え、何が奇跡かって? そりゃ、入ったらなんかすげえことが起きるんだろ。たとえば……どんな病気や怪我も一瞬で治っちまうとか、そんな感じだ。あ? これくらい曖昧な方が、伝説っぽいだろ? なんでもかんでもわかってたら、伝説じゃなくてただの事実じゃねえか。
やべえぞ。十一番目のキカイジュウってヤツが復活しちまったんだと。急いでアイツらを拾いに船で向かってるが、マグマの海はちょっと勝手が違え。こりゃ時間かかるかもな。 それにしても、銃ってヤツを少し練習しといて良かったぜ。弓とは違えが、真っ直ぐ弾が飛んでく感じも悪くねえ。それに、何度見てもかっこよすぎんだよなこの銃。そして似合ってるな、俺。
古代人が封印したという十二の機械獣。これらは十二の生き物がモチーフにされています。古代人にどのような意図があったのかまではわかりませんが、彼らはそれぞれの機械獣の性能すらもモチーフにした生き物に似せたのです。 たとえば、十一番目の機械獣は兎型。兎型は小さな身体を持ち、複数体が群れを成して行動すると言われています。ここから私の想像になりますが、小型にした分、回避性能を大きく上げているのではないでしょうか。どれくらいの数が群れを成すのかはわかりませんが、他の機械獣と同様に大きな脅威であることに変わりはないでしょう。
十一番目のキカイジュウが復活したっていう報告から船が出航するまでの前に、ドワーフのヤツらがせっせと船に大砲を積んでった。その手際の良さにも驚いたが、この大砲のかっこよさにも驚きだ。すっげえよ、こりゃ。ああ、一発ぶっ放してえな。リューゼスのヤロウの驚く顔が、早く見てえぜ。
これまで、十近くの機械獣を退けることができたのは奇跡なんだ。しかし奇跡が長く続くことはない。いつかこの世界は、あの燃える大海に沈んでしまう。 皆、わかっているはずなんだ。わかっているはずなのに……それでも、希望を捨てないでいる。僕には、わからない。結末を知っているのに足掻き続ける意味を、誰か教えてくれ……。
この海へと流れ込むマグマの量、そして海からどこかへと流れていくマグマの量、さらにそれらの流れの道筋は、時々刻々と変化している。そのため、マグマの海は、ゆっくりとその姿を変えているのだ。 機械獣が復活を始めた頃、海に溜まったマグマの量は今ほど多くはなかった。マグマの海が拡大を続けてきたことから、隠し砦ラスタルファもいつかマグマに沈んでしまうのではないかと危惧する者もいるが、それは杞憂と言って良いだろう。そこまでマグマの水位が上がるより先に、マグマはクリスタル峡谷へと流れ込むと予想できるからだ。もちろんそれを想定した上で、かつて我々は隠し砦の位置を決めたのだ。
リューゼスのヤロウもアイツらもくたばってなくて良かった。これがまさに、カンイッパツってヤツだな。へッ、難しい言葉、使っちまったか? まあ、これからが最終決戦、悪の親玉とご対面ってトコか。ずいぶんと待たせちまったみてえだが、あの古代人のお嬢ちゃんは無事か? もし間に合わなかったら夢見が悪い。……急がねえとな。
私は機構都市アルマニアを数人の仲間と交代で見張ってる。機械獣が復活したら共鳴石を使ってすぐに大将軍に連絡を入れるの。いつ復活するかはわからないし、仕事のほとんどは待つだけの時間。野良の機械や魔物に襲われることもあるし、危険な仕事だってことは承知の上。 だけど、私たちの報告に皆の命が懸かってる。だから私は今日も都市を監視するの。
機械獣の復活のペースが明らかに早くなってる。九番目の牛、十番目の虎、十一番目の兎。これらの復活は本当に立て続けだった。十二番目の機械獣——竜型の復活もきっと近い。私たちはいったいどうなるんだろう。 突然降りてきた地上人のことは、私の耳にも届いた。ヴァーニアの言い伝えみたいに彼らが現状を変え得る灯火になってくれるかどうかは私にはわからない。だけど、どのような形であれ、この戦いはもうすぐ終わる。それが皆にとって"良い終わり方"であることを、心から願ってる。
地獄の蓋が開いてしまった。俺はここで死ぬのだろう。どうかこれを見ている者よ。この地獄にもう一度、平和を——。
人にあって、機械にはないもの。それは「感情」だと誰かが言った。しかし、私はそうは思わない。優れた機械を観察していると、「確かに感情があるのではないか」と思う瞬間は少なくない。 機械も壊されることを恐れ、人を殺すことを嫌い、正しく生きたいと願っているのではないだろうか。機械を人殺しの道具にしているのは、他ならぬ人間自身だ。私たち機械技師は、如何にして機械と共に生きていくか。それを考え続けなければならないのだろう。
いにしえの時代に機械技術が著しく発展したきっかけの一つには、「オリハルコンの発見」があったと考えられています。オリハルコンは謂わば心臓であり脳。機械を動かす駆動力を生み出し、機械に人間の指示を伝え制御する奇跡の鉱石です。オリハルコンを機械に埋め込むことで、機械により複雑で繊細な動作をさせることが可能になりました。また、強い命令を刻み込めば、機械を自律駆動させることも可能です。しかし、私たち石と鉄の民は、自律駆動型の機械を作ることはほとんどありません。機械は人のための道具。自律させることで、機械が人の思惑を超えた行動を行うことの恐ろしさを、私たちは痛感しているからです。
古代人たちが作り上げた機械は、人々の生活を便利なものに変えた。世界は目覚ましく繁栄し、繁栄はさらに加速していったが、いつの間にかその速度は人が制御できるほどのものではなくなっていた。繁栄が暴走する先には、滅びの未来が口を開けて待っているにもかかわらず。
古代人の機械はいつしか、権力者の欲望を満たすための兵器となっていた。各地で戦争が勃発し、数多くの町が消し飛び、大勢の古代人が死んだ。特に猛威を振るったのは、帝国が保有する兵器——十二の機械獣だった。帝国は周辺国家を蹂躙し、世界の頂点に立ったかと思われた。
しかしある日、帝国から十二の機械獣が忽然と姿を消した。機械兵器の根絶を唱える中立国家の仕業であることは誰の目にも明らかであったが、如何にしてそれを成し遂げたのかは不明だった。それから、十二の機械獣は彼らの領土である火山島の地底深くに封印されたという噂が流れたが、それが真実であることを確かめる方法は存在し得なかった。
十二の機械獣の消滅で、戦争は終結へと向かうかと思われた。しかし帝国の弱体化に伴い、世界の均衡が大きく崩れたことで、新たな戦争が始まることになったのだ。人の欲望は、そう簡単に尽きることはない。古代人は終わらない戦争に疲弊したまま、そして滅びの日を迎えることになった。
この都市が毒霧に覆われてるのは、一番最初に復活したっつう蛇のキカイジュウの仕業らしい。そいつの復活はロキとかいうヤツが子供の頃のはずだから、もう10年くらい前になんだよな? そんだけずっと毒霧が消えねえって……どんだけやべえキカイなんだ。そんな人を不幸にするようなモンを作って、古代人はいったい何がしたかったんだよ。てめえの欲を満たしたいって気持ちはわかるが、だからって悪いことをするってのは……やっぱ違えだろ。
人の欲望によって世界を憎まされた機械獣たちよ、我々を赦してくれ。真に罪を償うべきは我々人間だというのに、我々は機械にその責任を負わせている。 扉が閉じられても、機械仕掛けの篝火がお前たちを照らし続ける。我々はお前たちを、決して忘れはしない。
人の欲望によって世界を憎まされた機械獣たちよ、安らかな眠りに就け。お前たちを正しく扱う方法を知る者たちがいつか現れるまで。我らの知らぬ彼らに託す。どうか正しき道に導いてくれ。忌み嫌われてしまった機械獣たちと、この機械仕掛けの篝火を。
お前を生み出したのは、人間たちの罪。全ての人間たちに罪を償わせるのはお前だ。それがお前の使命。それがお前の意志。それがお前の悲願。世界を真に救えるのは、お前しかいないのだから。
世界を救うには、お前の傍に眠る十二の同胞たちの覚醒を促すといい。十一番目までは、お前一人でもできる。そして古代人の生き残りと共に十二番目を復活させるのだ。さすれば、お前の悲願は叶うだろう。
罪人には罰を。罰の後には救いを。停滞した世界には救済を。お前は謂わば"機械仕掛けの神"。世界を終わらせ、世界を再生させる者。さあ、救世を始めようではないか。
十二の機械は、天に問う。何故、壊さなければならないのか。何故、殺さなければならないのか。何故、傷つけられなければならないのか。何故、恨まれなければならないのか。しかし、答えはない。
十二の機械は、天に願う。この暗闇の中で、永遠に眠らせてほしい。そして、もしも覚醒の時が訪れてしまったら、破壊してほしい。世界の全てを、破壊してしまう前に。しかし、答えはない。
神が自らに似せて人を造ったように、人は自らに似せて機械を作った。しかし、人が神になれないように、機械は人になれなかった。人型の機械は"なかったこと"にされ、漆黒の闇の底に棄てられた。そして人々は死に、機械の存在は忘れ去られていく。誰も知らない漆黒の世界には、人になれなかった哀れな機械だけが、たった一つ残された。
ザルツァイトの肥溜めみてえな場所で生まれた俺は、そりゃひでえ生活を送ってた。周りのヤツらはそのうちやべえ海賊船に乗って当然のように犯罪に手を染めるようになったが、俺は弱いヤツらから積荷を奪うような船には絶対に乗りたくなかった。その"一線"を越えたら、きっと野良犬と同じになっちまうって思ってたんだ。 バカで他にできることもねえくせに、変なプライドだけは持ってた。周りのヤツらにも見放されたさ。でも、ついに野垂れ死ぬかってときに、リューゼスのヤロウの船の噂を聞いたんだ。最高にかっこいいって思った。俺の居場所はそこなんだって、本気で思ったのさ。 ……まあ、その何が言いたいかっていうと、悪いことをするのは良くねえってことだ! あ、姫様の誘拐は結果オーライってことで、ノーカンだからな?
私はその日も未開の地を歩きながら、白紙の地図を埋めていた。機械獣の脅威が及ばない場所を探すためには、この世界の正確な地図が必要だったからだ。もしもあらゆる条件を満たした"楽園"が見つかれば、怯えて暮らす必要はなくなる。私の肩には、皆の命が懸かっていた。
「地震か?」と思ったときには、既に遅かった。私の足元の地面は崩れ始めていて、崩落から逃れる術は残されていなかったのだ。 落下する感覚、そして暗転。やがて意識を取り戻した私が松明を掲げると、緑で満たされた景色が見えた。草木が生え並ぶ広大な空間。ここは天国だろうか——? 私は何故か、そんなことを思った。
見上げると、天盤に小さく穴が開いているのが見えた。私がその穴から落下したのだとすぐにわかった。残念ながら、登ることはできそうにない。私はどこか別の"出口"を探すことにした。 生還は絶望的にも思えたが、私はあまり深刻に考えてはいなかった。この森は私たちの"楽園"になり得るかもしれない。私の地図師として使命が、痛む身体を突き動かしていた。
森には多くの魔物が蔓延っていたため、私は慎重に探索を続けた。しかし、歩き続けてどれくらい経ったのか、やがてわからなくなった。鞄に入れてきた食料は底を突き、木の実で飢えを凌ぎながら、それでも私は地図を描き続けていた。この地図が皆を救うのだ。そう自分に言い聞かせることで、生にしがみついていたのだと思う。
しかし、灯火もいつかは消える。朦朧とする意識。希望がひび割れる音。死の気配——。駄目かもしれない。そう思った瞬間だった。 私の目の前には「竜」がいた。忘れることなどできるはずもない。あの巨体。あの瞳。あの鼻息。私をじろりと睨み付けたその茶色い竜が、私の命を救ってくれたのだから。
そこは色とりどりの花が咲いた美しい空間だった。呆然とする私に、茶色い竜は言った。「迷い込んだ人間はお前か……。ここで死にたいか? 生きたいか? 選べ」。口調はそっけなかったが、私にはどこか暖かさを感じたことを覚えている。私は「生きたい」と答えた。すると竜は鼻息を一つ漏らして言った。「人間は、どいつもこいつも傲慢だ」と。
それが最後の記憶だった。目を覚ますと、私は仲間たちに囲まれていた。皆に聞くと、私は崩落場所の近くで倒れていたそうだ。地図も含めて、持ち物は全てなくなっていた。体調が回復した後、現場にもう一度行ってみたが、森の入口を見つけることはできなかった。「夢でも見たのだろう」と皆は言った。 竜は私たちを、人知れず見守ってくれているのではないだろうか。もしもそうならば、きっと私たちの未来は明るい——。私はそんなことを考えながら、また地図を描き始めたのだった。
おいおい、都市を動き回ってた機械が、急にピタリと全部動かなくなったぜ。なんか、時間が止まってねえか? ……これ、雷竜んときと同じじゃねえか? 大丈夫かよ、アイツら……。
人間はまるで成長する様子がない。失敗のたびに反省した様子を見せるものの、やがて必ず同じ失敗をする。実に滑稽な生き物だ。その一方で、自らの実力不足を棚に上げ、理想を掲げて突き進もうとすることもある。実に傲慢な生き物だ。なんとも……泥臭い。 だが、その滑稽さ、その傲慢さ、その泥臭さこそが、神々を名乗るあの不届き者どもとの決定的な差。あやつらの喉元を噛み千切り得る、鋭い牙だ。
我は世界が滅びようと構わない。だが、我が翼を気まぐれにもいだあの不届き者どもがのさばっている現状だけは許し難い。あやつらの思惑通りになどさせてなるものか……。この恨み、この苦しみ、この憤りを、いつかあやつらに叩き込んでやろう。だが、今まだその時ではない。
……人間たちは実に頼りない。アルテス・デンドルライトも大口を叩くくせに、一度たりともあやつらの元に辿り着いていないではないか。無駄な協力をしても、あやつらに我の存在を明かすだけになってしまう。我の存在は、おそらくあやつらにとって想定外。だから待つのだ。最もあやつらを悔しがらせることができる、最高の瞬間を。そして、あやつらの元に辿り着き得る、見込みのある人間の登場をな。
クソッ、全然戻って来ねえじゃねえか。アイツらどうなってんだ? しかし……よく考えたら姫様もアイツらと一緒にいんだよな? 姫様がかなりヘンなヤツってことは知ってるが、それでも歌が上手えだけのお嬢様だったはずだろ? アイツらについていくって、姫様って結構やべえヤツなんじゃねえか……?
この世界は一度、終わりを迎えた。焼き尽くされた大地。ある一族だけを残して滅びた古代人。動き続ける機械兵器。地面に開けられた大穴。それが世界の終わりの姿だった。
神は、その偉大なる力で世界を再生させた。新たな人類。新たな文明。平和な世界だった。世界を大洪水に呑み込ませ、全てを破壊しようとする悪しき存在が現れるまでは。
大洪水は、英雄たちによって防がれた。しかし、その代償に何を失ったのか。それを知る者は少ない。彼らが未来を守るために差し出したものは、「可能性」だった。
世界は終わり、また新たな始まりを迎える。終末を終わりなく繰り返す世界。それは、永遠の安寧と言えるのか? 否。それは、永遠に明けることのない夜。あるいは、永遠に終わることの許されない拷問である。
おいおい、竜のキカイジュウが復活しちまってんじゃねえか! ありゃやべえってことくらいは、俺にもわかる。 アイツら、また別の茶色い竜の背中に乗って、天盤に開いた穴を登って行っちまった。リューゼスのヤロウが俺たちの方を見て腕を上げてたが、あのヤロウらしいと言えばそうだな。どんなやばい状況でも自信満々で、なんとかなるって思ってる。だから俺たちは、リューゼスのヤロウにここまでついてきたんだ。アイツらなら本当に世界を救っちまうんじゃねえかって俺は思ってる。……頼んだぜ?
成人の儀式といっても、真面目にやる必要は一切ない。ある程度まで進んで戻れば晴れて成人。形骸化した伝統ってヤツだ。 だが、俺は今回最奥部まで踏破してやろうって思ってる。遺跡の奥まで行ったことのあるヤツはいないらしい。この俺なら余裕だろう。ふっ、俺の武勇伝の始まりだ。
なんでこんな危険なことしなきゃいけないんだろう……? 何もしなくても人は歳を取って成人になれるじゃないか。だったらこんな儀式、必要ない。大人たちの自己満足だろ……? 僕が偉くなったら、まずはこの儀式を廃止させよう。この世界には、無駄が多すぎるよ……。
大して強くもないくせに奥まで行くって言ってるバカもいるし、腰が抜けて全く役に立たない臆病者もいるし、最悪だね。こんなんが一緒に成人する仲間だって思うと、泣けてくるよ。 ま、あたしがなんとかすればいいか。ぎりぎりの戦いってのを演出しつつ、適当なとこで引き返して、終わり。ああ、早く帰って温泉に入りたい。
我ら石と鉄の民が巨人の身体から生み出されたという説があることは、皆も知るところだろう。しかしその巨人は今どこにいるのか? 実は、かつて成人の儀式に用いられていた遺跡の奥で、巨人の姿を見た者がいたというのだ。 どうやら巨人は、その遺跡の奥深くで秘宝を守り続けているらしい。巨人に力を示せば、その秘宝が与えられるという。……腕に覚えのある者たちよ。遺跡に挑戦してみてはどうだろうか?
我々は昇降機に乗り込み、最深層へと向かった。金属の箱が揺れ、鎖がぶつかり合う音だけがあたりに響いている。思っていたよりもずっと深い。まるで大きな化け物の胃の中へと送り込まれているかのような……どんよりと粘り気のある闇に深く呑み込まれていく。皆、黙っていた。 やがて昇降機が止まった。開いた扉から、一人、また一人と警戒しながら歩み出ていく。正面の暗闇を睨みながら、私も一歩を踏み出した。
探索を始めてから、すぐにわかったことがある。この最深層では、闇が光を呑み込んでしまうということだ。通常、光があればその分、闇は晴れていく。ここではその逆の現象が起きるのだ。有り余るほどの闇の存在が、我々が持ち込んだ光を弱めてしまう。 あたりを照らすには、通常の松明では心許ない。天盤も壁も見えない暗闇にたった一人残されたらと思うと足が竦む。……次に潜る際には、強く発光する物を持ち込む必要があるだろう。
皆、息が荒い。かく言う私もそうだ。まるで質量のある闇が身体に纏わり付いているかのように、身体が重い。ただ歩いているだけで、体力を消耗するほどだ。 ……そろそろ引き返すべきではないだろうか。この最深層に長居してはいけない。私の身体の奥深くから本能がそう訴えかけてくるのだ。班長も同じことを考えたのだろう。班長が撤退の号令を掛け、私は胸を撫で下ろした。しかし、そのときだった。暗闇の先からひたひたと何かが歩み寄る足音が聞こえてきたのは……。
我々は息を殺し、暗闇を静かに後退した。まるで我々を追い詰めるかのように足音は次第に増えていき、時折、耳を塞ぎたくなるような不快な機械音が混ざった。皆、恐怖と声を抑えるのに必死だった。 昇降機が暗闇の奥に見えたとき、我々は一斉に駆け出し、金属の箱の中へと滑り込んだ。扉が閉まり、箱を吊した鎖が巻き上げられていく。……生還したのだ。恐ろしい魔物や機械の姿を見たわけではない。そこには暗闇と何者かの気配があっただけだ。しかし我々は、ひどく精神を消耗していた。あの闇の奥に何が隠されているのか、知る必要は本当にあるのだろうか……?
十二の機械獣に匹敵する——いや、あるいはそれらを凌駕する一対の機械兵器を、私は作り上げることに成功した。あまりの興奮に私の両手は震え、心臓は痛いほどに脈打つ。……しかし、本当にこれらを世に放ってもいいのだろうか。一研究者としての溢れ出る好奇心と、一人間としての常識的な倫理観がせめぎ合い、衝突を繰り返している。ああ、私は罪深い。なぜ神はどうしようもなく愚かな私に、これほどの才能を与えたのだ……。
右手に創造の天使が舞い降り、左手に破壊の悪魔が棲み着くとき、合わせた両手からは小さな混沌が生み落とされる。混沌は次第に拡大し、やがて世界全体に飽和する。人はその現象に抗う術を、持ち合わせてはいない。ただ、為す術もなく為されるがまま、創造と破壊の輪廻に囚われる運命にある。
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