機械仕掛けの篝火を

ソルトルート

賢い少女の決意
私、見ちゃったんだ。かくれんぼしてて、船の倉庫に入ってみたら、大きな樽がたくさん並んでて、塩がいっぱいに入ってたの。
パパはね、塩をつくるには、海の水を乾かさなきゃいけないって言うんだ。でも……あんなにたくさんの塩をつくってたら、いつか海は全部乾いちゃうんじゃない? それってなんだか寂しいって思うから、私、決めたんだ。これから、塩を使った食べ物は食べないの。ふふふ、これで海は守れるかな?
海上騎士団長の思い出
私が海上騎士団の見習いだったころ、ソルトルートは危険な海域として知られていた。ザルツァイトから輸出される塩を狙って、海賊船が至る所に浮かんでいたのだ。
今では随分と平和になったが、これは先輩方の御尽力に依るところが大きい。海賊の横暴を決して許さず、ひたすらに駆逐を目指し、それを遂に実現した誇り高き海上騎士団。私は今でもあの先輩方の背中を追っている。この平和な海を眺めるたびに、改めてそれを思い出し、さらに精進せねばと奮い立たされるのだ。
見習い交易商人のメモ 8
塩は誰もが欲しがる最高の商品だよ。でも、だからって適当に売り捌いちゃだめなんだ。塩の売買で大切なことは、とにかく大量に欲している買い手を見つけること。
狙い目は、田舎の修道院や病院、あるいは魔法学校あたりだよ。治療か、保存食づくりか、あるいは魔術か、何に使うのかはわかったもんじゃないけど、彼らはいつも塩を欲しがっているんだ。いけると思ったら迷わず全部売ってしまうんだよ。わかったね?

シリーズ:見習い交易商人のメモ

商人ギルドの通達
今夏の塩の価格は、需要の増加に伴い上昇傾向にあり。他国大手商船団の買い占めによる価格の高騰が懸念されるため、一時的に他国船の購入制限を設ける。制限量は追って通達。各位、留意されたし。
竜追いテレムの航海日誌 1
まさか俺がザルツァイトを離れる日が来るなんてな。親も兄弟もいねえ俺には惜しむ気持ちはねえし、この先にどんなやべえ海が待ってるのかって興奮しかねえ。
知らねえ海を渡るんだ。せっかくだからこうやって日誌を書いていくことにした。学のねえ俺たちに読み書きを無理矢理叩きこんでくれたトルリの旦那に、感謝しねえとな!

竜巻諸島

気候学者の推察 4
島々に暮らす数少ない住人の話では、竜巻は一度たりとも完全に消えたことがないのだという。
水と風の魔力が強く衝突することで、竜巻は発生すると考えられている。つまり、この海域には水と風の強い魔力が常に流れ込んでいるということだろう。しかし、肝心の魔力の源は発見できていない。まったくもって不思議である。この現象について丁寧に探れば、世界の真理に近づけるような気がしている。
私も随分と老いてしまったが、研究者としての情熱が潰える日は、まだ先のようだ。

シリーズ:気候学者の推察

素人魔法使いの呟き 6
ただの風でも髪が乱れるから絶対いやなのに、竜巻なんてもうサイアク。せっかく習得した天候変化の魔法を使っても、ぜんぜん弱まらないし。
……でも私、それより大事なことに気づいちゃったんだけど、こんな危ない島に住人なんてホントにいるの……? 届け物の依頼って、もしかして罠? どうしよう、もう帰っちゃおうかな……。

シリーズ:素人魔法使いの呟き

頑固者の憤慨
神聖なる竜巻に守られたこの島々は、悪しき者たちが決して近づくことのできない聖域なのだよ! にもかかわらず近頃の若者ときたら、やれ不便だやれ危険だなどと言って島からすぐに出て行こうとする! まったく、伝統を守ろうという気持ちは少しでも持ち合わせていないものかね!?
クソッ……! 今日は配達が遅いではないか!? 老人だらけのこんな島では食料自給も難しいというのに……まったく何をやっているのだ!?
竜追いテレムの航海日誌 2
魔海域を航海しまくってたときは、リューゼスのヤロウについてったらいつか死ぬんじゃねえかっていつも思ってたんだ。だがいざ安全な航路を進んでみると、退屈で仕方がねえ。
竜巻諸島に突っ込むってんで、どっかの王子様やら選ばれしなんとかやらっつうアイツらは驚いてたみてえだが、こんなのは屁でもねえだろ。俺たち船乗りの本気ってヤツを見せてやるぜ!

約束された凪

こそ泥サルベージャーの自尊
凪の海域で船を進めてたら、監獄島へと向かう黒塗りの船とすれ違ったんだ。ありゃまるで悪魔の船って感じの恐ろしさだったぜ。いったいどんな犯罪に手を染めたら、あんな船に乗せられるんだか。
犯罪ってのはな、バレないようにこそこそ小さくやるもんなんだよ。一発ドデカくやっちまおうなんて奴は、俺からしてみりゃあ愚かの極みって感じさ。
ヘッ、ここら辺の海底に落ちてる古代の機械は集めりゃ結構な金になるんだ。やばい、俺って本当に賢すぎて、最高にイケてるぜ。
悩める漁師の自問
波風の立たない海を眺めていると、不思議な気持ちになるの。そして、いろんなことを考える。何も起きないってことは本当に良いことって言えるのかなとか、この海は何を思っているんだろうとか、私はどうやって生きていくべきなんだろうとか。答えが出るわけじゃないけど、でもこうやって考えることに意味はあるって思ってる。
……ふう。もうちょっとこの仕事、頑張ってみようかな。
気候学者の推察 5
海上には強い風が吹き、荒波が立つと決まっている。陸とは異なり、海には風の魔力の流れを遮る物がほとんど存在しないからである。しかし、この海域だけは例外だ。周辺海域でどんな嵐が起きていようとも、この海だけは決して荒れることがないのだ。
物事の例外には、深い理由が存在して然るべきだ。私はこう推察する。風の魔力の流れを打ち消す"何か"が、隠されているのだと。しかし、ここまで来てなおその手掛かりは一向に見つけられない。……諦めるものか。学者の本分は、失敗と前進にあるのだから。

シリーズ:気候学者の推察

竜追いテレムの航海日誌 3
あれは「キカイ」で合ってんのか? 牛の形をしたやべえヤツが襲ってきて、大騒ぎだった。アイツらはさすがに負けなかったみてえだが、何やらまずいことが起きてんじゃねえかって会議はしてるみてえだ。まあ細けえことは俺には関係ねえが、あんなキカイがもしもこれからも大勢出てくるってんなら、それも大航海って感じで良いじゃねえか? なあ?

プリズナーズライン

脱獄名人の画策 1
監獄送りにされることが決まった囚人のほとんどは、監獄に輸送されているこの段階で脱獄の準備を始めなければならないことに気づいていない。監獄の周辺環境の観察や、囚人の輸送法や輸送頻度の把握など、今しかできないことは多いのだ。金に困っている看守と繋がりを持つことだって可能かもしれない。
後になって「あのときああしていれば」などと思わないように、できる準備は全てしておく。それが名人のやり方だ。
探検のススメ 8
「状態異常」には様々な種類がある。それらを駆使することは、戦いを有利に進める上でとても重要だということは、前にも話したはずだ。
今回はその上級編だ。この世には、敵や君自身がある状態異常になっているときにのみ特別な効果を発現する装備が存在する。「自身が毒状態のときにだけ、毒の威力が上昇する短剣」などがその例の一つだ。使いづらい……と思ったかもしれない。しかし、これらの装備をどう上手く活用するか。それを考え始めることができれば、君は探検はもっと素晴らしいものになるはずだ。

シリーズ:探検のススメ

新米冒険者の気づき 9
海の森には隠されたお宝がある、なんて誰が言ったんだろう? どこを探してもお宝どころか、遺跡や小さな島すら見当たらないんだ。
今まであまり考えたことなかったけど……僕って、もしかして騙されやすい性格なのかな? かなりショックだけど、これもまた気づきの一つだ。これからは騙されないように気をつけて、"したたかさ"ってやつを身につけていかないとな。あんまり……自信はないけど。

シリーズ:新米冒険者の気づき

竜追いテレムの航海日誌 4
虫ってのはどうも苦手だ。こそこそ動き回ったり血を吸ったり死体に大量に湧いたり、気色悪いったらねえ。
今日、海の森でリューゼスのヤロウがニヤニヤしながら近づいてきて、「肩にでけえ虫がついてるぜ。お前の新しい子分か?」ってほざきやがったんだ……。アイツにバカにされると頭にくるから、その虫を平気な顔して握りつぶしてやった。アイツのつまんなさそうな顔はケッサクだったが、手の平に残ったあの感触は……思い出したくもねえよ。

スチームウォール

囚人輸送船船長の呟き
この通行許可証さえあれば魔物に襲われる心配がないことは十分に理解しているものの、蒸気の海を抜ける際にはどうしても気が張ってしまう。
もしもこの輸送船が沈み、囚人が逃げ出すなどということになれば、我が小国の信用は落ち、危険な罪人たちを自国に収容・管理していかなければならなくなる。それ以外にも問題が山積している我が小国に、そのような余力などないだろう。無事に囚人を届けなければならない私の責任は、とてつもなく重いのだ……。
噂好きの怪談噺
こんな噂話がある。監獄島の周囲を覆う蒸気の海を抜けると、船に乗っている人間の数が、一人増えていることがあるらしい。誰が増えたのか、調べてみてもなぜかわからない。そのまま夜が明けると、今度は一人減っていて、元の人数に戻るんだと。それでほとんどの人間は安心するらしいが、賢いヤツだけがそこで気づく。もしかすると誰かが消されて……何者かに"入れ替わって"しまったんじゃないか、ってな。
魔物生態研究報告書 8
この蒸気の海で生態調査ができるなんて、信じられないわ。本部は監獄島にどれほどの大金を積んだのかしら?
まあそれも、私には関係のないこと。蒸気の中には、"姿を消す魔物"が潜んでいると聞いてるわ。ふふ……いったいどんな顔をしているのかしら。その透明のヴェールを剥がすまで、絶対に帰ってやらないわ。

シリーズ:魔物生態研究報告書

考古学者の知見 4
考古学者の間で実しやかに囁かれる一つの噂があった。「ある火山島には、古代戦争に使用された脅威の兵器が眠っている」と。噂の出所はわからない。くだらないと一蹴する者がほとんどだが、私の敬愛する友人は違った。
彼は、監獄島と呼ばれる謎多き島に機械兵器が眠っていると推察し、単身向かった。しかし……以来、彼からの連絡はない。かくして私も彼の後を追い、こうして監獄島への潜入を試みているわけだ。この蒸気に覆われた海を抜けたら件の監獄島に着くはずだ。いったい何が待ち受けているのか。私の指が震えてしまうのは、恐れからだろうか、あるいは興奮からだろうか。それすらも今は、わからない。

シリーズ:考古学者の知見

竜追いテレムの航海日誌 5
魔海域の他にもいろんな海があるもんだぜ。蒸気の中にはやべえ魔物もいるから、この先の監獄島からの脱獄がムズいって話だ。
だが正直なとこ、そこまでして脱獄って防ぎてえもんか?って俺は思うがな。悪いヤツなんて世の中に溢れてんだから、ちょっとくらい脱獄者がいたって何にも変わんねえだろ? それがイヤなら監獄に入れずに最初から殺しちまえばいいだろ? 偉いヤツらの考えってのは、よくわかんねえな。

監獄島の港

監獄修道院修道士の教え
この監獄島には、たくさんの囚人が暮らしています。しかし、彼らのことを、決して蔑んだり哀れんだりしてはなりません。こうして祈りを捧げる私たちと罪を償おうとする彼らとの間に、違いなどないのです。
私たちは皆、生まれながらにして罪人。全ての生は、罪を償うために与えられた試練なのですから。
新人看守の回顧録 1
あの満月の晩、私たちは港町の警邏を担当していました。火山がいつもよりも静かで、「今夜こそ"悪しき者"が現れるのではないか」と相棒と二人で冗談を言いながら港町を歩き回り、夜更けには城に戻ってきました。
そこで……私は違和感を覚えました。暗闇の中で、屋敷の正門がわずかに開いていたのです。「監獄卿のお孫さんがまた"夜の探検"にでも出てしまったのか」とそのときは思いました。しかしそれは……間違いでした。
もしもあの晩、警邏の担当ではなかったら、私たちもあの惨劇に……。そんなことを考えてしまう私は、看守失格でしょうか?
監獄島の若者の夢
私、大人になったら結界守になりたいなあ。看守もかっこいいなって思うんだけど、監獄に囚われてる人たちってやっぱり……ちょっと怖いから。それに、結界守の方が、町を守ってるって感じがするよね。結界がなかったら、噴火で飛んでくる岩とか火の玉とかで町は大変なことになっちゃうんだから。
……まあ、あともう一つ理由があるんだけど、結界守のおじさん、いっつも本を読んでるだけなんだよね。すごくその、楽な仕事なのかなって、思ってるの。ふふ、どうせ仕事をするなら、楽な方がいいに決まってるよね?
結界守の昔話
この魔法結界は、かつてこの島を訪れた偉大な賢者が作ったと言われているんだ。我々がこの危険な島に暮らすことができているのは、その賢者のお陰だというわけだ。ん、その賢者の名前? ううむ……何だったかな。ゼイルだか……サインだか、そんな感じだった気がするが……。次回までにおじさんが調べておくよ。今日のところは、勘弁してくれないか?
ドラゴンハンターの日記 3
竜の棲む場所は、人間にとって過酷な環境であることが多い。その意味で、監獄島の恐ろしき火山にも竜が棲んでいるのではないかと思ったが、その考えは間違っていなかった。古い文献にたった一つ「火の山と地に堕とされた竜」という言葉が登場したのだ。あの火山には竜が棲んでいるのではないか?
私には、真相を確かめる責務がある。しかし目下の課題は、監獄島への侵入方法だ……。

シリーズ:ドラゴンハンターの日記

グルメな命令書 9
監獄だらけの島には、火山の噴煙で燻しながら焼いた絶品ステーキがあるらしいわ! しかも一口食べるだけで、その人の罪が半分に減るっていう噂じゃない! この私に罪なんて一つもないでしょうけど、罪を減らすほどの味が本当に気になって仕方がないわ!
しかも、何の肉を焼いているのかについての情報が一切ないじゃないの! まさか罪人の肉なんてことはないと思うけど、今すぐに監獄島に潜入して確かめてきなさい! もしも保存の利く燻製肉だからってゆっくり持って帰ってきたら、あなたも監獄送りにしてあげるわ! 覚悟して頂戴! 

シリーズ:グルメな命令書

見習い交易商人のメモ 9
謎多き監獄島との交易は、特別な専売許可が必要だよ。許可が得られれば利益を独占できるけど、美味い話にはデメリットが付き物なんだ。
どうやら、許可を貰った商人は「監獄島の内部のことを口外してはいけない」らしいんだ。自分の口は重いから大丈夫と思っていても、気が緩んだときに口にしてしまうかもしれない。それに、もし口外したらどんな拷問を受けるか、あるいは殺されてしまうか、わかったもんじゃないよ。得体の知れない奴らには関わらないのが一番なんだ。わかったね?

シリーズ:見習い交易商人のメモ

慎ましき島民の声
周辺の国々では「監獄島に入ったら二度と出られない」などと言われているようですね。しかし、私たちも監獄卿に許可をいただけば島外へ出ることも可能ですし、そもそも私たちは望んでこの島に住んでいるのです。
監獄卿は素晴らしい御方です。行く当てのなかった私たちに手を差し伸べ、住処と仕事を与えてくださりました。周囲からはそう見えないかもしれませんが、監獄卿は常に私たち島民や囚人たちのことを想っておられます。願わくばこの慎ましい生活が、ずっと続きますように。
竜追いテレムの航海日誌 6
監獄島なんてやばそうな名前をしてるからどんな感じかと思ってたら、港町は結構普通じゃねえか。まあ山が火とか岩とか煙とかを噴き上げまくってるのは異常ではあるがな。
それにしても、世界を救うっつう目的には、なんつうか……ぴったりな場所だ。物知りな仲間が「火山のてっぺんには悪の親玉がいるってのがジョーシキだぜ」っつってたんだ。確かに俺もそんな物語をちらっと聞いたことがある。
さあ、ここからアイツらは火山に登って悪の親玉と戦うんだろ? ……と思ったが、看守と戦ってねえか? 何してんだアイツら。

監獄迷宮

床に書かれた古代文字
罪を咎められた者の前には、二つの道が続いている。一つは、自らの愚行を悔やむ贖罪の道。もう一つは、世界の全てを恨む独善の道。
しかし、どちらを選択したとしても、未来はさほど変わらない。君がこの監獄の冷たい床の上で息を引き取ることは、もう決まってしまったのだから。
二級囚人の現実
あーあ。どうしてあんなヘマしちゃったんだろう。いつもだったらもっと上手くできたのになあ。まあこれも反省ってことで、ぱっぱと罪を償ってまた仲間のところに戻ろう。大金を稼ぐついでに運命の人まで見つけちゃって、幸せな家庭を築いちゃおっかな。
えっと、私の刑期って何年だっけ? え……333年? やば。
模範名誉囚人の好奇
監獄迷宮のどこかに、千年刑を宣告され、死することも許されない極悪人が囚われているという噂がある。懺悔にも飽きてしまった私は、いつからかその者の捜索にのめり込んでいった。
しかし、監獄迷宮の構造はあまりに複雑で、未だに全貌を把握できていない。本当に……囚われているのだろうか。私は湧き上がる好奇心を抱いて、今日も監獄迷宮の奥深くへと潜っていく。
脱獄名人の画策 2
どうやらこの監獄迷宮には、魔力を制限する結界が張られているらしい。外側から転移魔法で監獄内に囚人を送ることは可能だが、囚人が魔法を使って外に出ることは不可能な仕組み。くわえて、看守が直接この監獄内に来ることはほとんどないようだ。実にシンプルでよくできた脱獄防止策だ。
これはすぐに脱獄することは難しいかもしれない。しかし……焦っても仕方がない。まずは情報を集めるところから始めよう。
新人看守の回顧録 2
城内は血まみれでした。城内警備を担当していた仲間の死体が廊下に転がっていて……何かを引き摺るような血の跡が続いていました。
私たちは震える足で、それを辿りました。そして……食堂で見つけてしまったのです。監獄卿とご家族が、一人残らず……。血溜まりが月明かりを……あのような殺戮は……まともな人間のすることではありません。いえ、悪しき者の仕業だとしても、あれはあまりに……。
私たちは助けを呼ぼうと思ったのですが、情けないことに……腰が抜けて足が動かなくなってしまいました。しかし、そのとき、看守長の服を着た……えっと、そう……ティルフィさんが来て……言ったんです。「私の好きだった監獄卿は、亡くなってしまいました」と。その声があまりに冷静で……私は、なぜか安心したのを覚えています。
竜追いテレムの航海日誌 7
おいおい、やべえぞ……。リューゼスもアイツらも、甲冑の男に消されちまった……。トルリの旦那だけはなんとか逃げてきたみてえだが……。アイツらがそう簡単にくたばるわけねえって今は信じるしかねえ。
しかし……港町のヤツらは良いヤツばかりで助かったぜ。どうやら前のカンゴクキョウとかいうヤツは、ずいぶんと慕われてたみてえだ。あの甲冑の男はそれを全部ぶち壊しちまったってワケだ。
ん? それってやっぱり悪の親玉ってヤツじゃねえか?

罪人たちの楽園

盗掘の極意 4
盗掘マスターを目指す君へ! 一度捕まったくらいで夢を諦めてはいけないよ! 「失敗のない偉人はいない」って成功者は口を揃えて言うんだ! どうして捕まってしまったのかをまずは考えよう! そして次に脱獄だ! 脱獄に成功したら、これからは入念な下調べを行って、誰にも見つからないように慎重に盗掘するんだ! ほら、また一歩盗掘マスターに近づいた!

シリーズ:盗掘の極意

グルメな命令書 10
監獄島に関する情報はものすごく少ないわ! でも、私のグルメ情報網をあんまり舐めないで頂戴!
監獄島の囚人には、年に一度だけ豪勢な監獄食が振る舞われるらしいわ! それがどんな料理なのかはわからないけど、あまりに美味しすぎて囚人たちの間で奪い合いの大乱闘が起きるらしいじゃない!
やっぱりあなたは監獄送りよ! もう根回しは済ませたわ! 適当なタイミングで出られるようにしてあげるから、安心して服役してきなさい!

シリーズ:グルメな命令書

新人看守の回顧録 3
新しい監獄卿は……私たちを恐怖で支配しました。いつ殺されてもおかしくない状況……。まだまだ新人の私がこの仕事に対して持っていた小さな誇りも、それを尊重してくださった先代の監獄卿も、穏やかな生活も、全てが一晩にして奪われてしまったのです。
怒りと悲しみと恐怖。しかし無力な私たちには、何もできなかった。……いえ、何をすれば良いのかわからなかった。そんな私たちに「表向きは新しい監獄卿の命令に従うべきだ」と道を示してくれたのはティルフィさんでした。そして私たちは、彼が提案した作戦に命を懸けることにしました。外の世界から来るという者たちに……運命を委ねるために。
傭兵の契約書 4
——傭兵ダムレイ。
契約を違いし者には、然るべき制裁が与えられる。永遠に抜けることのできない牢獄に、君たちを送ろう。しかし、もしも牢獄から抜け出せたのなら、もう一度だけ機会をやっても良いだろう。君の全ての望みを叶える機会を、だ。以上。
名もなき者ども

シリーズ:傭兵の契約書

とある傭兵の独白 4
俺の罪が、赦されることなどあるはずがない。全ての過ちはこの身の奥底に深く刻まれている。血を流し続けるこの傷と共に生き、苦しみの中で死んでいかなければならないのだ。
だが……ここで諦めるわけにはいかない。皆を必ず救う。もう少し……待っていてくれ。

シリーズ:とある傭兵の独白

竜追いテレムの航海日誌 8
死んだかと思った看守もぜんぜん死んでねえし、ティルフィとかいうスカしたヤツがアイツらを救いに行きましょうとか言い出しやがるし、何なんだよこりゃ……? トルリの旦那の知り合いっつうから悪いヤツじゃあなさそうだが、ヤツの態度にはなんかわかんねえが違和感がある。どうにも嘘くせえっつうか……だが、他に手がねえことも確かだ。クソッ、こんなときにリューゼスのヤロウがいたら……なんて思うのはやめろ! 俺たちがアイツらを助けに行くんだよ! 

贖罪の双子塔

南京錠に書かれた古代文字
悪人と善人を分け隔てるものは何か? その答えの一つが「信頼」だ。善人は誰かを信頼し、誰かに信頼される。一方で、悪人は信頼をすることも、信頼を得ることも難しい。
つまり、もしも君たちが誰かと真なる信頼関係を獲得したのであれば、きっと贖罪を果たしたということなのだ。
脱獄名人の画策 3
なるほど、双子塔か。わざわざ脱獄方法を用意してくれるとは、おあつらえ向きだ。
しかし、本当にこのまま塔に登り、魔方陣に触れても良いのだろうか。これまで私は単身で脱獄に成功してきた。誰かを頼るなど、あまりに不確定要素が多すぎる。
なんとか仲間を集めることには成功したが、彼らが信用できる人物かどうかは、未だわからない。……本当に良いのか? もっと確実な脱獄方法を探すべきではないか?
兄妹天使の会話 1
「ねえ、お兄ちゃん。罪って何?」「妹よ。罪とは、人間が持つ穢れのことさ」「じゃあ、お湯を浴びれば罪は流せるんだね?」「いいや、罪は心にこびりついていて、お湯じゃあ流せないのさ」
兄妹天使の会話 2
「ねえ、お兄ちゃん。贖罪って何?」「妹よ。贖罪とは、善いことをして罪を赦してもらうことさ」「じゃあ、善いことって何?」「善いこととは、それが善いことだってみんなが思っているだけの、本当はあまり意味のない行為のことさ」
兄妹天使の会話 3
「ねえ、お兄ちゃん。足枷って何?」「妹よ。足枷とは、その足首に繋がっている金属のことさ」「どうして、私たちは足枷をしているの?」「それは僕たちが、神に逆らう大罪を犯したからさ」
兄妹天使の会話 4
「ねえ、お兄ちゃん。本質って何?」「妹よ。本質とは、隠されて見えないけど、一番大切な部分のことさ」「どうして、大切なのに隠されているの?」「大切なものほど、見えない場所に隠したくなるものなのさ」
竜追いテレムの航海日誌 9
船が溶岩の上を進んでるってのに、全然燃える気配がねえ。ティルフィのヤツの特別な力のお陰らしいが、アイツ本当に人間かよ?
だが、これで助けに行けるぜ。大人しく待ってろよリューゼスのヤロウ。「今度は世界を救いに行くぜ」っててめえが言ったから、俺はまだ船に乗ってんだ。こんなとこでくたばったら一生許さねえからな。

逆流溶岩道

聡明なる島民の声
本当に珍しいことなんだけど、溶岩が逆流することがあるの。麓の溶岩湖から山腹を登って、頂上へと戻っていくんだ。
天変地異の前兆だとか悪魔のいたずらだとかって騒ぐ人もいるけど、当然のことなんじゃない?って正直私は思う。私たちだって、息を吸っては吐いてを繰り返しているでしょ? 物事の全ては循環なの。火山だって、溶岩を吐いているだけじゃきっと"息苦しく"なっちゃうと思うんだ。
のんびり看守の哀しみ
……なんだかすごいことになっちゃったなあ。こんな僕のこともいつも気に掛けてくれた監獄卿が亡くなっちゃったのは、本当に哀しいよ。監獄卿の奥さんの料理はいつも美味しかったし、息子さんたちはすごく頼もしかったし、元気なお孫さんと遊ぶのも楽しかった……。
ねえ、もしも火山の聖獣がこれを聞いているなら、教えてほしいんだ。どうして良い人たちが先に死ななくちゃならないんだい? こう言うのは良くないってわかってるけど、この島にはもっと悪いことをしてきた人たちがたくさんいる。それなのに、どうして?
……教えてよ。じゃないと……この世界はものすごく歪で、恐ろしいくらいに不公平ってことに……なっちゃうからさ……。
孤独な旅人の呟き 5
赤い山が怒り狂っている。穢れ多き世界に一石を投じ、欲望にまみれたちっぽけな人間たちの生を糾弾するかのように。
僕はなぜ、こんな危険な島まで来たのだろう。罪に咎められたわけじゃないし、誰かに強制されたわけでもないのに。
……いや、本当はわかってるんだ。この島に来れば赦されるかもしれないと思ってしまった。そう……僕は赦されたかった。赦されたら、この孤独も終わるんじゃないかって、そんな甘い幻想を抱いてしまったんだ。

シリーズ:孤独な旅人の呟き

竜追いテレムの航海日誌 10
やっぱりアイツらは無事だった。まあ、心配なんてこれっぽっちもしてなかったが。
だが……古代人のお嬢ちゃんは攫われちまったらしい。悪の親玉め、えげつねえことするじゃねえか! 逆流する溶岩だかなんだか知らねえが、そんなのはどうだっていい。俺は今、すげえ燃えてる。悪の親玉から仲間を救ってこそ、英雄ってヤツだろ。なあ?

地獄の門

幻獣事典 4
燃え盛る火山の頂上には、聖なる心を宿した幻獣が棲んでいる。筋骨隆々の黒い身体、二本の赤い角、そして周囲に纏った灼熱の炎。幻獣はその荒々しい外見とは裏腹に、麓を静かに見守り続けてきた。
罪の意識に苦しむ人々に赦しを与えるため、幻獣は時折姿を変えて言葉を交わし、彼らの運命に干渉している。しかし、それが火山の聖獣であること気づく者はほとんどいない。人々の記憶すらも書き換えられてしまうからだ。
幻獣は今日も人知れず、皆の苦しみにそっと寄り添っている。

シリーズ:幻獣事典

吟遊詩人の詩 4
一人の囚人が檻の中で呟いた。「僕は罪を償えるのだろうか」。すると若い男の声がした。「全ての罪は、いつか必ず赦されます。正しくあろうとする心を、胸に抱き続けていれば」。囚人が顔を上げると、鉄格子の向こうに見慣れない看守が立っていた。囚人は暗い声で言う。「僕は、正しく生きようとしてきたんだ。それなのに罪に問われた。でも……ずる賢く生きるヤツは間違っているのに捕まらない。正しくある意味なんて……ないんだよ」。
すると看守は囚人を見つめて言った。「全ての行動は、いつか自分に返ってきます。正しき行い、正しき反省を、見ている者が必ずいるからです」。囚人は項垂れる。「こんな暗い檻の中で……誰が見てるって言うんだ」と。
すると看守の優しげな声が聞こえてきた。「あなたが正しくあろうとしてきたこと。あなたが苦しみの海で藻掻いてきたこと。あなたが今も前に進もうとしていること。少なくとも私は全て、知っています」。囚人がはっとして顔を上げると、そこに看守の姿はなかった。囚人の目には、彼のいなくなったその空間に一瞬、小さな炎が揺らめいたように見えた。

シリーズ:吟遊詩人の詩

監獄卿の記憶 1
私が父から監獄卿の座を継いだ日、父に呼ばれ、監獄島の真実を伝えられた。この大地の下にはもう一つの世界があり、古代に作られた危険な機械が眠っている。そして、それらの機械を悪しき者たちに奪わせないことが、私たちに与えられた使命なのだと。
もちろん私は驚いたが、同時に納得がいった。なぜこの島は外部との接触をできる限り避けているのか。もちろん周辺国家から預かった囚人たちをしっかりと管理する目的があることは事実だが、それ以上に何か、より明確な理由があるのではと勘ぐっていたからだ。
人類の未来を守る。その重大な役目に、私はある種の興奮を覚えると同時に、一抹の不安を抱いたのだった。
監獄卿の記憶 2
その晩、私は不思議な体験をした。「火山の聖獣」と直接会話をしたのだ。
緊張した私の前に現れたのは誠実そうな青年で、私は拍子抜けをしてしまったことを覚えている。「あなたが新たな監獄卿ですか」と彼は丁寧な口調で訊き、私が頷くと彼は柔和な顔で微笑んだ。
それから私たちは一晩語り合った。まるで旧来の友人のように私たちは他愛もない会話に花を咲かせたのだ。本当にあれは、楽しい一時だった。
明くる日に彼は消えてしまった。しかし、彼がずっと傍にいてくれるのなら、きっとこの島を守っていくことができる。そして監獄卿としての役目を全うできる。私はそう確信したのだ。
監獄卿の記憶 3
ザルツァイト王国のトルリ公爵から届いた手紙を読んだとき、ついに何かが動き始めたのだとわかった。私の祖先が静かに守り続けてきた監獄島の秘密が暴かれるかもしれない。世界を救おうとする彼らの心に嘘偽りがないか、私自身の目で見極めなければならないと私は自分に何度も言い聞かせた。
あの晩に語り合った青年——火山の聖獣は、この事態をどう見ているだろうか。彼ともう一度だけ話がしたい。いつもよりも静かに煙を噴き上げる火山を見上げながら、私はそう思ったのだった。
竜追いテレムの航海日誌 11
ティルフィ……というかイフリートだっけ? ヤツは幻獣だった。幻獣って、あのセイレーンの仲間ってことだよな? まあ、とにかく良いヤツだったってわけだ。
だが、トルリの旦那はヤツに記憶をいじられて気づけなかったことが結構ショックだったみてえだ。「仕方ねえよ。旦那ももうすぐ棺桶に入るくらいの爺さんなんだから」ってちゃんと慰めてやったんだが、余計にヘコんじまった。なんか間違ったか?

マグマストリーム

天文学者の講義
我々が暮らすこの大地の"形"を、君たちはどう考えているだろうか? 遠くの彼方まで平坦な地面が続き、その先には大地の端がある。そう信じている者が多いだろう。しかし、我々天文学者の間では、この大地が球体であるだろうことはもはや常識となっている。
この大地に端は存在しないのだ。しかし、中心は存在する。我々が立つこの地面の下、大地の中心には何があるのだろうか? もしも火山の頂上からマグマ流に潜ることができれば、その答えがわかるのかもしれない。
聖獣の声 1
地の底の世界で異変が起きていることを、私は知りませんでした。もしも古代の機械を復活させようとする者が来るのなら、それは地上からだと信じて疑わなかったからです。
私はあまりに愚かで、それ故に、私の罪はあまりに重い。あの不届き者に、監獄卿の一族をみすみす殺させてしまったことも……私の過ちです。私は必ず、あの者に罪を償わせます。
聖獣の声 2
監獄卿よ、もう少し待っていてください。あなたの最期の祈りに、私は必ず応えますから。
そしていつかあなたに、謝罪をしに行きます。願わくばその後に、あの晩のような他愛もない会話をあなたと——いえ、それは高望みかもしれません……。
竜追いテレムの航海日誌 12
船でマグマの中に突っ込んで、この大地の下に潜っていくだって? やっぱり大航海ってやべえな!
「どうやって帰ってくんだよ」なんて野暮なことを訊くヤツはいねえ。仲間たちもみんな興奮しちまってる。やっぱり俺たちには、こういうのが性に合ってるな。

月影の巌窟島

酒浸り探検家の忠告
あんたのことはよく知らねえが、こんなクソみてえな酒場で会ったのも何かの縁だ。……あ? 酒がまずいのは事実だろ。いつも金を払ってやってるんだから、てめえはちょっと黙ってろ。
……すまねえ、話が逸れちまった。まあとにかく、あの島に行くのは……やめといた方がいいぜ。俺の知り合いは誰も帰ってきやしねえ。神父の隠し財産だか、貴族の遺産だかなんだか知らねえが、ありゃ罠だ。……俺の勘がそう言ってる。命がなけりゃ、大金を見つけたって意味ねえんだ。バカな考えは捨てて、まずい酒をこうして飲んでる方が……俺は賢いと思うぜ?
無謀な探検家の後悔
クソッ、なんなんだよこの島は……! 最初から確かに、違和感はあったんだ……。船から降りたとき、足元にいた小さな蟹を踏んだ。それ自体はなんでもないことだが、その直後にひどい頭痛に襲われたんだ。健康自慢の俺に、頭痛なんてあり得ないことだった。……思えばあのときに戻っておくべきだった。あの小汚えおっさんの言う通り、俺は財宝に目が眩んだバカだ。
……細かいことはわからないが、おそらくこの島では、俺が何かをすれば"それが俺に返ってくる"。考えろ……。魔物が蔓延るこの島から無事に脱出するにはどうすればいい?
神父の遺言
私の財産の全てを、君に託す。君だけは、私を無下にしなかった。君だけは、私の言葉を信じた。
君がその財産で何を為そうと構わない。それが世の秩序に反することであっても……だ。君のような無辜なる人間が投獄されてしまうこの世界に、完璧など存在しない。善悪の基準さえ、その者の捉え方次第なのだから。君は君が正しいと思うこと——君の為すべきことを為せばいい。私の財産が、その助けになれば幸いだ。
奪われた者の執念 1
平等など、存在するはずがない。不平を声高に唱える者は、善人ぶっている世間知らずだ。公平性というありもしない幻想を追い求める愚者。大した苦労も努力もしていないくせに、自分が劣っている点の責任を社会や他人になすりつけて叫び出し、他人を貶めようとする自分勝手な人間。
そういう人間に限って、自分が優位に立っているときは、何もしようとしない。何も言わない。何も気づかない。本当に公平な世界を作りたいのなら、その醜悪で身勝手な心をまずは改めなければならないというのに。
奪われた者の執念 2
俺は平等な世界を作ろうとは思っていない。ただ、公平性という剣を振りかざして他人を貶める人間に、同様に公平性という剣で身を切られる覚悟があるのか確かめるだけだ。他人の物を奪うのなら、他人に物を奪われても構わないのだろう。ありもしない幻想を身勝手に望むのなら、そのありもしない幻想に殺されても文句を言う筋合いはないはずだ。
さあ……俺から奪った全ての物を、お前たちから奪い返してやろう。人はこれを「復讐」と呼ぶかもしれない。しかし、これはとても公平な——お前たちが嫌いな不平等を是正するための……お前たちが望んだ行為なのだ。
悪魔の囁き
——世の歪みに歪まされし者よ。恨みの炎に身を焦がす覚悟があるか? その魂と血肉の全てを捧げれば、お前に力を与えてやろう。自らの思想に妄執し、その歪みを以て歪みを押しつける"復讐者"としての力。そして、お前の魂の内に眠る……竜の力を。

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