冒険という選択

修練の洞窟

そそのかされた弟の声
悔しくて飛び出してきちゃったけど、頑張れば本当にお兄ちゃんの仲間に入れてもらえるのかな?
ううん、頑張るんだ。僕が臆病じゃないってことを証明しなきゃいけないんだ。……でも、暗いし、変な臭いもする……。頑張らなきゃいけないのに、やっぱり怖いよ……。
そそのかした兄の声
奥まで行って帰ってくれば認めてやるってあいつに言ったら、案の定あいつがこっそりと家を出ていくのが見えた。
臆病なあいつにはあの洞窟を攻略するなんてどうせ無理だろう。少し危ない魔物だっているし……。くそッ、仕方ないな……迎えに行ってやるか。

ゴブリンの洞窟

とある若者の手記
ゴブリンたちは、俺たちの村から奪った財宝を一体どこに隠しているんだ? 財宝部屋のようなものは見つけたが、そこに大したものは置いてなかった。
本当に大事なものは、別の場所に隠しているな。本当に小賢しい奴らだ。
新米冒険者の気づき 1
僕はゴブリンのことを、心のどこかで見下していたのかもしれない。まさか洞窟に落とし穴が仕掛けられているなんて、思いもしなかったんだから。僕は見事にその罠にかかり、足をくじいてしまった。本当に情けない。
でも、怪我の功名があった。穴の中で見たことのない装備品を見つけたんだ。……僕って本当は、運が良いのかも?

シリーズ:新米冒険者の気づき

北西の海岸線

探検のススメ 1
探検を始めたばかりの君、もしくはこれから始めようと思っている君へ。
探検に欠かせないものが何かわかるだろうか? そう、それは装備だ。より良い装備が、より良い探検を支えてくれる。そして、より良い探検によって、より良い装備が得られるだろう。
この好循環を起こすことができれば、君も立派な探検家だ。
夢見る少女の便箋
この海の向こうにいるあなたへ。
どうかあなたに、私のたくさんの幸せとちょっとだけの寂しさが伝わりますように。そして、あなたの大きな勇気を、この島でずっと生きていく私にも分けてもらえますように。

古代の墓地

さまよえる戦士の呟き
……ココハ、ドコダ……。ワタシハ、ナニヲ、シテイル……。アア、クルシイ……ソレニ、ナツカシイ……。ココロガ……アツイ……。ワタシハ……ドコニ……ムカッテ…イ、る。
盗掘の極意 1
盗掘マスターを目指す君へ! 盗掘はいけないことだと言う大人もいるけど、躊躇ってはいけないよ。この世は弱肉強食。すべてのものは奪い奪われることで成り立っているんだ。
だから、思い切って飛び込もう。そして、素晴らしい盗掘ライフを!
新米冒険者の気づき 2
肝試し感覚で「夜に探索してみよう」なんて言った僕が間違ってた。アンデッドが夜にこんなに活動的になるなんて、なんで誰も教えてくれなかったんだ?
……それに、初めて見る奴もいる。明らかに強そうだし、僕たちでは敵わないだろう。こういう時にするべきことは一つ。ひたすら、逃げるんだ!

シリーズ:新米冒険者の気づき

風竜の爪痕

魔物生態研究報告書 1
この峡谷では、多数の翼を持つ魔物たちのほかに、風竜の幼体が確認されたわ。
幼体は思いの外たくさんの数が生息しているようだけど、不可解なことに、風竜の成体を見たものはいないようね。この謎を解く鍵を、私たちはまだ持ち得ない。ドラゴンとは何なのか。そのほぼすべてが謎に包まれているの。
幼体はどのようにして生まれ、そしていつ成体になるのか。私はその謎を解明したい。
思いつめた女性の手紙
もう何もかも、投げ出したい。そう思って風竜の爪痕まで行ったけれど、結局、私は臆病だった。
でもね、不思議なことがあったの。崖の端に素足で立っていたら、谷底から突風が吹き上げたの。とっさに目を瞑っちゃったんだけれど、大きな影が飛び上がったのが確かに一瞬見えた。本当に一瞬だけ、その影の主と目があった気がしたの。その瞳がね、私の失敗も不甲斐なさも全部包み込んでくれるような……優しさをたたえていたの。
あれはね、きっと……ううん、やっぱり違うかも。……でも、私、もう少しだけ頑張れそう、そんな気分になれた。
ドラゴンハンターの日記 1
今日で115日目だ。
もし明日あの竜に出会えなければ、一度国に帰るしかない。奇跡を願う他はないが、今回の探索で大きな収穫もあったので、手ぶらではないのが救いだ。
二つの卵のうち一つは巣に戻しておいた。この卵から何が生まれてくるのか、実に楽しみだ。
探検のススメ 2
魔物との戦いを有利に進めるために大事なことは、その魔物ごとに効果的な武器や攻撃方法を選ぶことだ。
例えば、空を飛んでいる魔物。素早く移動する彼らに特に有効なのは、槍や弓による攻撃だ。まっすぐ魔物へと向かっていくような「突攻撃」は、彼らの翼を貫き、大きな傷を与えることができるだろう。

水門の町カカキ

とある門番の日記 1
今日もいい天気だった。やはり、取り立てて面白いことはなかった。いや、いつも通り取り立ては行なっているのだが、その取り立ては取り立てて面白くはないということだ。
明日、誰か強そうな奴は来ないだろうか。適当に難癖をつけて、思う存分戦ってみたい。
とある門番の日記 2
なぜ憧れていた兵士になったのに、こんな地味な仕事をすることになってしまったのか。その原因を考えていたら、お金はないが門を通りたいという輩が現れた。それなら川を泳いで渡ってくれと言おうとしてそいつを見たら、とても強そうだった。だからつい、口が滑ってしまった。
「俺に勝ったら、ここを通ってもいいぞ」
とある門番の日記 3
剣を抜いた俺を見て他の門番たちは目を丸くしていたが、すぐに俺とそいつの戦いに野次を飛ばしてきた。娯楽に飢えていたのは、俺だけではなかったのだ。
戦いの末に俺は勝った。最高の気分だ。領主様にバレないようにこれからも続けていこう、と仲間たちと約束をした。
次の獲物が、とても待ち遠しい。
グルメな命令書 1
水門の町は、下流で採れたお米を使ったパエリアが有名なのよ! パエリアには川でとれる甲殻類のしまった身がたくさん入っているらしいわ!
早くレシピをマスターして、私にも食べさせなさい!

黒霧の沼地

孤独な旅人の遺書
ダメかもしれない。濃い霧のせいで方向感覚を失ってしまった。それに、霧を吸い込み過ぎた。頭が朦朧として、手足がしびれてきた。視界もぼやけている。
生まれてからずっと独りぼっちだった僕にふさわしい、寂しい最期だな。でもせめてこの遺書を、僕が生きていた証拠として残しておこう。これで僕も、ほんの少しだけ世界に関わることができる。
願わくばこれを読む者よ。どうか孤独に死にゆく僕に、ささやかな祈りを。
誰かの注意書き
黒霧ばかりに目を奪われるな……。本当の危険は、沼地の中にひっそりと潜んでいるぞ……。
素人魔法使いの呟き 1
魔法の良いところは、敵に近づく必要がないってことね。毒々しいぬるぬるの魔物を殴ったり切ったりなんて、私は絶対いやだもの。そういうのは仲間に任せて、私は安全な後列から魔法を放ち続けるわ。
うーん、最高。
魔物生態研究報告書 2
この沼地の生態系は非常に特殊のようね。毒性のある霧の中で暮らせるよう、毒を体内に取り込むことができる能力を持っている。毒耐性を持つ魔物たちの楽園といったとこね。……それにしても、沼地の中心に向かうほど、霧が濃くなっている気がするわ。
沼地の中心部に霧の発生源があるのかしら? もし、その発生源が魔物だとしたら……面白いわね。早速、調べに行かなくちゃ。

人食いの遺跡

亡き者の残留思念
油断した……。まさか、この遺跡全体が"罠"だったなんて……。
盗掘の極意 2
盗掘マスターを目指す君へ! 皆が危険だと口を揃える場所ほど、まだ誰も見つけていない宝物が眠っている可能性が高いぞ! でも探索には十分気をつけるんだ。命あっての盗掘だからね。
魅力的な宝物と自分の命をうまく天秤にかけられるようになれば、君はまた一歩、盗掘マスターへと近づけるはずだ!

亜熱帯の草原

気候学者の推察 1
どうやらこの辺りは、一年のうちある時期にだけ雨が降り続けるようだ。
雨が降る時、雲は東方から流れてくると聞く。つまり、遠く東方にある川や海から空へと上った水の魔力が雲となり、風が西向きとなる特定の時期にだけ、この地へと雨を降らすのだ。この草原に生えた草たちは、そのときに蓄えた水の魔力を使って、乾燥したこの地で生き延びているのだろう。
なんと、自然はたくましく、そして素晴らしいのだろう。
見習い交易商人のメモ 1
亜熱帯の草原を通るときは、とにかく魔物たちの群れに気をつけるんだよ。彼らにはそれぞれの群れでナワバリをもっていて、ナワバリの境界線に糞をするんだ。
だから注意深く周囲を見て、「ため糞」を見たときは決してそれ以上近づかず、大きく迂回するんだ。わかったね?
親切な立看板
南西に進めば、香辛料の町ペペリ!
ずっとずっと北東に進めば(無事に進めれば)、水門の町カカキ!
新米冒険者の気づき 3
何日もこの草原で過ごしていて、僕は気がついたんだ。いつもナワバリ争いをしているオークとウェアウルフだけど、昼にはオークが、夜にはウェアウルフが優勢になるんだ。毎日毎日、攻守交代しながらナワバリを奪い合ってる。どちらが勝つわけでもなく、たぶんこれからもずっと彼らは争い続けるんだ。
……なんだかちょっと、かわいそうかも。

シリーズ:新米冒険者の気づき

香辛料の町ペペリ

傭兵の契約書 1
――傭兵ダムレイ。
我々盗賊団の用心棒として働くこと。報酬は1割。仕事を与えてやってるだけ感謝しろ。
契約は以上。
とある傭兵の独白 1
なぜ俺が、仁義のない悪党どもの手助けをしなければならないのか……。しかし、背に腹は変えられない。皆を救うことに繋がるのなら、俺はどんな地獄に落ちても良い……。その覚悟は、してきたはずだ。
皆よ、すまない。
グルメな命令書 2
香辛料の町は、近くの草原の草花から作った香辛料と、それらをふんだんに使ったスパイシーなスープが有名なのよ! 口に入れると、とろりとしたスープが舌に絡みついてきて、少し後からピリッとしたホットな刺激が広がるらしいわ!
活力の源、百薬の長とも呼ばれていて、老化を抑える効果もあるらしいじゃない! 急いで食べないといけないわ! 早くレシピをマスターして、私にも食べさせなさい!

アキーク砂漠

見習い交易商人のメモ 2
目印のない砂漠を抜けるのは、想像以上に難しいからね。必ず空の太陽や星を見ながら進むんだよ。決して砂丘や風の方角なんかを目印にして進まないこと。あんなのは頼りにならないよ。
それに、人間はちゃんとした目印がないとまっすぐ歩くこともできない生き物なんだ。もし迷ってしまったら、一生砂漠からは抜けられないよ。わかったね?
吟遊詩人の詩 1
恋い焦がれる少女に、悪魔が言った。「お前の恋を成就させてやろう。もし、この赤い砂漠の中から本物の赤い宝石を見つけられたらな」と。少女はそれから毎日砂漠に出て、赤い砂を拾い、宝石を探し続けた。少女はそして大人になり、宝石が見つからないまま、老婆になった。
死ぬ直前に老婆は砂漠に出て、悪魔にこう言った。「私は間違ってた。砂の中から宝石を探すような努力をするくらいなら、あの人に好きになってもらえるように自分を磨くべきだったのね」と。悪魔がにやりと笑い、老婆の魂を奪おうとしたとき、翼を持った獅子のような幻獣が現れて、こう言った。「ずっと見ていたぞ! そなたの努力を! 私が最期にその願い、叶えてやろう!」と。
すると、砂漠の赤い砂のうちの少しだけが、赤い輝きを放ち宝石へと変化した。老婆はその宝石を拾い、まるで幼い少女のように、たくさんの涙を流した。そして彼女の魂は、すでに先立ってしまっていた想い人のいる、天国へと召されていった。
新米冒険者の気づき 4
砂漠のうだるような暑さは確かに辛いけど、それよりも砂の上が歩きづらいことの方がずっと厄介だよ。僕なんて、何度足を取られて転んだことか。
でも、転んでわかったこともある。それは、アキーク砂漠の赤い砂がとっても綺麗だってことだよ。鈍く輝いていて、まるで宝石みたいなんだ。そして、転ぶたびに砂粒を見ていたら不思議なことに気がついたんだ。中には、本当に赤い宝石、なんていうんだっけ、ガーネット? みたいに赤く輝く透明な石があったんだ。
これは、きっと価値があるんじゃないかな? 次の町に着いたらすぐに鑑定してもらおうっと。

シリーズ:新米冒険者の気づき

アキーク大砂丘

警備隊長の警備記録 1
本日も異常なし。
吹き抜ける風によって模様や形が変わる、いつものアキーク大砂丘。刻一刻と変わり続ける、いつまでも変わらない景色。私はこの景色を、この国の人々と共にずっと眺め続けていく、そんな平和な人生を願っている。
……そういえば、もうすぐ王妃様のご出産が近いらしい。国王様も近頃そわそわとしている。願わくば、正しき心を持つ王子が産まれてきて欲しいものだ。そして、新たな王子と共に、この国の平和を守り続けていきたい。そう、いつまでも。
魔物生態研究報告書 3
この砂漠には、いつか伝説の虫、デザートウォームが襲いに来るという言い伝えがあるらしいわね。
もちろんそれにも興味はあるけれど、この砂漠にはもっと確実に出会える強い魔物が潜んでいるというわ。強力な毒を持つ巨大なサソリだっていうじゃない。砂漠は虫に支配されることが多いのは、なぜかしら? 獲物が少ないせいで、大型の動物は命を繋げることが難しいから? 昼夜の温度差の激しい砂漠でも活動できるような機能を、虫たちの方が獲得しやすいから? いろいろ考えられるけど答えがどれなのかはわからないわね。
なんにせよ、百聞は一見にしかず。とにかく突撃あるのみよ。
孤独な旅人の呟き 1
砂漠は落ち着く。誰からも後ろ指さされることもないし、砂漠は僕のことを気に留めるそぶりもない。これが、大自然というやつなのだろう。
星空を見ながらふと考えた。どうして僕は、人類の一員として産まれてきたのだろう。孤独な僕に、なぜ生が与えられたのだろう。
その答えは、いくら旅をしても見つけられなかった。もし死んだら、そのときに答えはわかるのだろうか?

アキーク王宮

アビヤッド王の日記 1
私たちに念願の子供達が産まれた。待ち望んでいた産声はなんと二つだった。二人とも男の子だ。これほどまでにめでたい日はないだろう。
皆の祝福の声を我が妻にも聞かせてやりたいが、彼女は少し疲れてしまったらしい。意識が朦朧としていて、私の呼びかけにも応じられないようだった。
彼女もはやく元気になるといいのだが。
警備隊長の警備記録 2
今日は皆が、仕事に集中できていないようだった。それもそのはずだ。昨日は、興奮と喜びと悲しみが一斉に押し寄せてきた、嵐のような1日だったのだから。
……新しい王子は双子だった。これでアキーク王宮も安泰だ。皆が歓声をあげてからしばらく後、その悲劇が伝えられた。ご出産の際に、王妃様が……。
芽吹く命があれば、散りゆく命もある……ということか。人には、そのタイミングを選ぶことはできない。ああ、神様はなんと残酷なのだろうか!
グルメな命令書 3
砂漠の町は、赤い砂のオアシスの近くにしか生えない赤いヤシの木が有名なのよ! その木からとれる赤いヤシの実を割ると、また赤くて甘いミルクが出てくるの! そのまま飲んでもとても美味しいようだけど、発酵させてヨーグルトにすると、酸味が加わってさらに美味しいらしいわ!
残っている実をぜんぶ買い占めて、急いで持って帰ってきなさい!

初代王のピラミッド

追悼の言葉
始祖の王、偉大なる王、導きの王。
居場所もなく行くあてもなかった我々に、王が授けてくださった全てのものを、我々は決して手放しません。家族を、生活を、国を、仲間を、これからも守り続けていきます。
我らが王よ。その崇高なる魂の行く末に数多の幸があらんことを。
幻獣事典 1
赤い砂の砂漠には、その地に国ができるより遥か昔から住む、1匹の幻獣がいた。
獅子の体に雄羊の頭、そして大鷲の翼を持つその幻獣は、砂漠に暮らすようになった人間たちのことが好きだった。砂漠に向いているとは思えない貧弱な体を持ちながらも、知恵と協力と工夫によってたくましく、そして慎ましく生き抜く人間たちが愛おしかった。人間を見ていると飽きなかった。
だから、幻獣は願った。この平和が永遠に続くようにと。
そして、幻獣は誓った。人間がいつか苦難に陥ったときには、その決意に応じて自らの力を貸すことを。
警備隊長の警備記録 3
オシリス王子はとてもわんぱくだ。また勝手に狼に乗って、ピラミッドの方へと出かけてしまったようだった。砂漠は危ないと再三言っているが、その程度の注意では、オシリス王子の溢れんばかりの好奇心は抑えることはできない。これも王の資質というものなのだろうか。一方、セト王子は冷静だ。今日も書物庫にこもって難しい本を読み漁っているようだった。
二人の王子は不思議だ。同じ容姿で、全く対照的な性格。しかし、人々を惹きつける「何か」を二人とも確かに持っている。まだ幼い少年である二人のどちらかがいずれ次の王に選ばれても、きっとこの国は大丈夫だと思っているのは、私だけではないだろう。
砂漠の伝説 1
世界が大きく変わる時、地を揺るがすほど巨大な虫が現れる。虫は破壊の限りを尽くし、人々が積み上げたすべてのものを奪っていく。
そして、人々は選択を迫られるだろう。虫にすべてを奪われ、無の世界からもう一度やり直すか。それとも、虫に抗い、とめどない苦しみにもがきながら新たな朝焼けを待つか。
さあ、選ぶといい。その決断の先に幸多き未来があらんことを。
砂漠の伝説 2
虫に立ち向かい、朝焼けを望む者よ。その決意は誰のため? 目指す景色はどこにある? 険しい砂丘を越えた先には、さらに険しい砂丘が続いている。永遠の苦難に耐えるには、大理石よりも硬い精神を持つか、盲目になるしかない。
さあ、選ぶといい。正しいと思える選択が、本当に正しい道だと信じられるほどの愚直さを、これからも持ち続けることができるのならば。
新米冒険者の気づき 5
なんだかカッコいい三角の建物が見えたから入ってみたけど、いったい何が目的で建てられたものなんだろう? 中に人はいないし、入り組んでるし、アンデッドもいっぱいいる。でも不思議なことに、薄気味悪いのに、少し神聖な感じもするんだ。なんだっけ、この感じ? ずっと昔、僕は似たような感じの場所に行ったことがある。
あれは……そう、思い出した。……おじいちゃんの葬式の後に迷い込んじゃった、大聖堂の霊廟だ……。もしかして、この大きな建物ってお墓……?

シリーズ:新米冒険者の気づき

天地逆転ピラミッド

少年オシリスの冒険譚 1
その遺跡の入口を見つけたのは、偶然だった。
広大な砂漠の南西の端、王宮から遠く離れた場所を探検していたとき、背の低い四角い台座のようなものが視界の隅に見えたんだ。砂レンガでできたその小さな台座は明らかに人工物であり、なぜ誰も来ないこのようなところに、と私は不思議に思った。そして、台座にそっと触れてみると、閃光が放たれ、台座の上部になにやら複雑な模様が青く浮かび上がったんだ。
それは、魔術師が描く「魔法陣」のようなものだった。台座はゆっくりと滑り、階段が現れた。そのとき私はふと、探検するならセトと一緒がいいと思った。だから、もう一度台座に触れて蓋をしてから、急いで王宮へと戻ったんだ。
少年オシリスの冒険譚 2
半ば無理やり連れてきたセトと一緒に、私はその階段を降りて行った。もちろん恐怖はあったが、それ以上にわくわくしていた。心臓が脈打ち、わずかに呼吸が荒くなり、これが本当の冒険なのだと高揚したよ。……しかし、その頃の私とセトは、自分たちの実力を測れるほど賢くなく、それを過信してしまうくらい幼かったんだ。
入り組んだ遺跡の中は、恐ろしい魔物の巣窟だった。私たちは逃げ回るうちに、入口への道を見失い、そして途方に暮れた。わずかしか持って来なかった松明を節約して使いながら、私とセトは遺跡の細い行き止まりで身を寄せ合った。私はその間、恐怖に挫けそうになる弱い心を奮い立たせ、セトだけでもなんとか無事に帰らせることができないかと、必死にその方策を考えていた。
少年オシリスの冒険譚 3
しかし私たちは、魔物にあっさりと見つかってしまった。私はとっさに、セトに大きく息吸うように叫び、眠りを誘う白煙弾を地面に投げつけた。閉鎖空間での使用は自殺行為だったが、それ以外、少しでも生き長らえる方法が思いつかなかった。
すると突然、セトが私の腕を掴んで走り出した。息が苦しくて、少しだけ白煙を吸い込んでしまった。しかし、閉じそうになる瞼の先に見えたのは、入口だった。セトに導かれて遺跡を脱出できたんだ。喜びのあまりに叫ぶ私たちは、しかし、白煙の影響でそのまま夜空の下、砂の上で眠ってしまった。この苦い思い出こそが、私の最初の"冒険譚"だ。
……もちろん、父上にこっぴどく叱られたよ。でも、冒険がしたいという気持ちが薄れることはなかった。鍛錬してもっと強くなって、もっといろいろな場所に行って見たい。その気持ちがより一層強くなったんだ。
少年セトの決意 1
ある日の昼、書物庫で本を読んでいた私のもとに兄上が駆けてきました。そして、兄上は興奮した様子で、誰も気がついていないであろう遺跡に二人で一番乗りしようと言ったのです。
「二人で抜け出すなんて、大騒ぎになって後で怒られるに決まっています」と私が答えると、「なんだ、セトは行きたくないのか?」と兄上が不思議そうな顔をしました。その頃の私はまだ少年でしたから、本当は私も行きたいと思っていました。だから、そこまで言われたら仕方がないという態度をとりながら黙って本を閉じ、兄上について行ったのです。
少年セトの決意 2
私たちはそして、意気揚々と入り込んだ遺跡で凶暴な魔物たちに追い回され、迷子になってしまったのです。私は、ひどく後悔していました。なぜこうなることが予想できなかったのか、なぜあのとき冷静になれず、兄上を止めることができなかったのかと。
兄上は私に心配をかけないように、死の恐怖に震える私のことを何度も励ましてくれました。しかし、兄上の声も恐怖に震えていました。だから、私は必死に考えました。この遺跡の入口を見つける方法はないかと。
少年セトの決意 3
私は松明の炎が少しだけ揺れていることに気がつきました。それが何故なのか考えようとしたとき、魔物が現れたのです。私は絶望しました。背中は壁。目の前には巨躯の魔物。
しかし、兄上は諦めていませんでした。私に大きく息を吸うように叫ぶと、煙弾を投げたのです。魔物はすぐに眠りにつきました。そのとき私は、立ち込めた白煙が少しだけ流れているのが見えました。そう、風の流れが見えたのです。とっさに私は兄上の手を取って風上へと走り出しました。そして、辛うじて入口へとたどり着いたのです。
なんとか外に出て台座を閉めて、白煙の影響で眠りに落ちる寸前、私は思いました。もう、冒険はこりごりだと。そして、以来ますます冒険に入れ込むようになった兄上を見て決意しました。……私が国王になってこの国を守り、そして、兄上がいつか世界中を冒険できるように、王子という呪縛から解放してあげるのだと。
少女ナナの記憶 1
昼過ぎになってからやっと私は、2匹の狼がいなくなっているのに気がついたの。すぐにわかった。あの二人が勝手に探検に出かけたんだって。
そのとき私は思ったの。……どうして、私も連れて行ってくれなかったんだろう、って。きっとそのとき私はすでに、オシリスがしてくれる冒険の話に、憧れを抱いていたんだと思う。だから、悔しさと寂しさとちょっとの怒りでいっぱいになった私は、警備隊長に二人の脱走を伝える前にね、少しだけ独りで涙をこらえてたの。
少女ナナの記憶 2
オシリスとセトが警備隊長に連れられて帰ってきたのは、夜明け頃だったのを覚えてる。二人がいなくなってしまったことは町の人たちにも広まっていたから、みんなが夜通し砂漠中を駆け回って二人を探してたの。深い青に変わり始めた南西の空に、二人の無事を知らせる黄色の閃光煙弾が上がったとき、町の人たちみんなが安堵の声をあげた。
二人はね、それだけ慕われていたの。もちろん、私も二人のことが好きだった。でもね、あの日から本当にちょっとだけ、二人は変わってしまったの。どう変わったのかは、はっきりとはわからなかった。だけど、それがなんだか私にはちょっとだけ寂しく、同時に嬉しいことにも思えたの。
警備隊長の警備記録 4
ナナが、拙い足取りで私のもとに走ってきて、王子二人が一緒にどこかへ行ってしまったと涙ぐみながら言った。私はすぐに国王様に報告し、警備隊員総出で彼らを探し始めた。しかし、一向に見つからない。そのうちに日は暮れて、噂を聞きつけた町の人々が捜索に参加してくれたにもかかわらず、行方はわからなかった。
そして、もう夜明けが近いという頃、私は砂漠の南西の端に、二人がいつも乗っている2匹の狼がいるのを見つけた。狼たちのすぐ隣には、砂漠の上で身を寄せ合って眠る二人の王子の姿があった。本当に無事で良かったと私は心の底から安堵した。
これ以上の悲劇は、この国には起きて欲しくなかった。二人の寝顔はとても穏やかで、それはまるで神話に出てくる双子座の兄弟のように整っていた。しかし、まだ二人とも10歳になったばかり。月明かりに照らされたその顔にはあどけなさが残っていた。
……一体こんな何もない場所で二人は何をしていたのか? その答えを見つけられないまま、私は明けゆく空に黄色の閃光煙弾を放った。
アビヤッド王の日記 2
我が息子たちが探検に出かけ、夜明けまで見つからなかった。オシリスとセトのことを夜通し探してくれた警備隊員たちや町の人々には、感謝しかない。私たちはなんと素晴らしい民たちと共に暮らすことができているのだろうか。彼らに心配をかけるような行為をするのではないと、私は二人を今までで最も厳しく叱りつけた。
ああ、天に召されし我が妻よ。どうか愛する二人の息子たちが、幸福で充実した平和な日々を歩み続けられるように、私と共に願ってくれないか。私が地上から、我が妻が天から二人の成長を見守れば、きっと未来は明るい。そう思えるのだ。
とある騎士の怒り
……この世界は歪だ。生まれながらにして上に立つ者たちが、下の者たちを靴の裏で踏みつけ、さらに高い場所を目指していく。地を這いつくばる者たちは、上を目指す者たちの足首を掴み、引き摺り下ろそうとする。なんと醜く、そして愚かなのだろう……。
私は決心した。残りの生涯のすべてをかけて魔力を練り続け、私の命が散る寸前に魔法を放つのだ。世界のすべてを"逆転"させる、禁忌の魔法を。……これは、権力に囚われ、重力に縛られ、目指すべき方向を見誤った者たちへの、私の最大限の皮肉だ。
朽ちかけた手紙
あなたのこ……、救…なく…、ご………さい。…なたは………界…絶望して…………のね。あな………と、……愛…………いればよ……た。……は逆……なか……わ。待っ……。今、私が迎え…………ら。

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