吟遊詩人の詩 1

恋い焦がれる少女に、悪魔が言った。「お前の恋を成就させてやろう。もし、この赤い砂漠の中から本物の赤い宝石を見つけられたらな」と。少女はそれから毎日砂漠に出て、赤い砂を拾い、宝石を探し続けた。少女はそして大人になり、宝石が見つからないまま、老婆になった。
死ぬ直前に老婆は砂漠に出て、悪魔にこう言った。「私は間違ってた。砂の中から宝石を探すような努力をするくらいなら、あの人に好きになってもらえるように自分を磨くべきだったのね」と。悪魔がにやりと笑い、老婆の魂を奪おうとしたとき、翼を持った獅子のような幻獣が現れて、こう言った。「ずっと見ていたぞ! そなたの努力を! 私が最期にその願い、叶えてやろう!」と。
すると、砂漠の赤い砂のうちの少しだけが、赤い輝きを放ち宝石へと変化した。老婆はその宝石を拾い、まるで幼い少女のように、たくさんの涙を流した。そして彼女の魂は、すでに先立ってしまっていた想い人のいる、天国へと召されていった。

入手元:アキーク砂漠

吟遊詩人の詩 2

幼い少女が顔をくしゃくしゃにして大声で泣きながら、鬱蒼とした森の中を歩き回っていた。「何をしているんだい?」と見かねた一角獣が少女に声をかけた。白馬のようなその一角獣は、この森に棲む幻の獣だった。
少女は鼻をすすり、涙をぬぐいながら答えた。「ママが死んじゃったの……。それで、だれかが、ユニコーンっていう動物ならママを元に戻せるかもって言ってたの……。だから……」と。一角獣は静かに答えた。「死は、巻き戻せないんだ。君は、死が悲しいかい?」と。少女はその問いかけに、より大きな声で泣くだけだった。
「死と再生は隣り合わせなんだ。死があるからこそ豊かな生がある。君の悲しみは、きっと未来の強さになる。だから今は思いっきり泣くといいよ」。そう言って一角獣は少女に身体を寄せ、草の上に座り込んだ。少女は一角獣を抱きながら一晩中泣き続け、そしていつしか安らかな眠りについた。
朝日が昇る頃、家の前の草むらで目を覚ました少女は、その心に残る大きな悲しみと、手のひらに残るわずかな温もりを確かに感じていた。

入手元:ユニコーンフォレスト

吟遊詩人の詩 3

男が独り、歌っていた。誰もいない岸壁に座り込み、俯きながら。「とても勇ましい歌なのに。どうして悲しげに歌っているの?」。海の中から声がして、男は涙に濡れた顔を上げた。何も見えなかったが、揺れる水面に向かって男は答えた。「……勇ましい歌だから、余計に悲しいのさ。楽しかったあの頃、みんなで歌っていた歌なんだ」。海の中からまた、声がする。「私に似ているわ。私も悲しいときは、楽しい歌を歌うの。逆さから」。その言葉の意味がわからず首を傾げた男の耳に、美しい歌声が聞こえてきた。どこかで聞いたことのある旋律。先ほどまで自分が歌っていた歌だとすぐにわかった。「……だけど、とても悲しい歌詞だ」。勇ましく見える船乗りたちも、本当は死を恐れている。失うことを恐れている。ずっと、皆で冒険をしたいと思っている。そんな歌詞だった。
歌が終わったとき、男は呟いた。「勇気を出すことは、みんな怖いんだ……」。すると、声が聞こえた。「本当の気持ちは恥ずかしがり屋だから、すぐ裏側に隠れちゃうの。だけど、見栄っ張りの勇気でも、私は良いと思うわ。その勇気はきっと嘘じゃないから」。その声にはっとした男は、頬を両手で叩いて立ち上がり、ありがとう、と言った。するとまるで手を振るように、青い尾びれが水面から飛び出したように見えた。

入手元:星拾いの珊瑚島


トップ   編集 凍結 差分 バックアップ 添付 複製 名前変更 リロード   新規 一覧 検索 最終更新   ヘルプ   最終更新のRSS
Last-modified: 2022-01-25 (火) 01:30:00
This site is protected by reCAPTCHA and the Google Privacy Policy and Terms of Service apply.